■ テレビクルー
バンコクから来たというテレビクルーを紹介された。タイPBS、女性ディレクター、ミンさん、アナウンサーのパットさん始め、女性3名、男性5名、皆20代から30代の若手だ。前夜20時に小型バスでバンコクを出発し、今朝、ホェイモ村に到着。チェンライに2泊して、3日目の夜にバンコクへ引き返すという。4泊中、車中泊2泊という強行軍だ。テレビの制作関係はどこの国でもハードワーカーばかりだ。
始め、無理してタイ語でポツポツ話していたが、ミンさんもパットさんもきれいな英語を話すことがわかり、一挙に間が縮まった。今回はブランコ祭りと北タイの食材というテーマでドキュメンタリーを作るらしい。お餅の味はいかがですか。いや、日本の餅と同じ味ですよ。日本でも新年やお祝いごとがあるとお餅を作ってみんなで食べる習慣があります。
この日、北タイどん詰まり、ホェイモ村を訪れた部外者はテレビクルーと日本人2人だけということがわかった。ミンさんの頭に、北タイの食べ物について日本人がコメントするというアイデアが生まれたらしい。ディレクターの思考は柔軟である。それから、自分とIさんが何か食べていると、カメラが回る。時にはパットさんが質問し、何か答えると、それでは同じ質問をしますから、同じように答えて下さい、と言う。パットさんはカメラが回り始めると、さっと笑顔に変わる。仕事とはいえ見事な変身ぶりだ。
■昼から食べ過ぎ
餅を食べるリハーサルを繰り返しているうちにブランコが出来上がった。4本の生木で櫓を組み、中央から数メートルの縄を降ろす。縄の太さは直径5センチほどか、末端が小さな輪になっていて、輪に幅10cm、長さ40センチほどの板を差し込む。取りあえず、おばさんが縄をまたぐようにして板に腰掛けて試し乗り。自分で漕ぐのは大変なので、縄に細い紐をつけてその紐でブランコを揺する。
見物は子供を含めて、十数人だけ、アカの衣装を着た女性はほとんどいない。本来のブランコ乗りは夕方に始まるらしい。
村長が、お食事を用意してありますので、皆さん、我が家にお越しくださいという。ええー、もう餅でお腹一杯だよ。村長の家の庭にしつらえれたテーブルの上に、鶏肉のスープ、肉炒め、茹で野菜、生野菜等が用意されていた。生野菜にはドクダミも入っている。
テレビクルーと闖入者、我々2名のためのご馳走であるが、まず、パットさんと我々だけで食べる。その様子がカメラに収められる。ちょっとおかずを摘んでご飯を軽く一杯食べただけ。あんなに餅を食べるのではなかった。我々が終わるとクルー全員の食事。
■暖かさを感じる村
村は35戸、100ｍも歩けば村はずれに出てしまう。年配の女性、小学生以下の子供の姿が目につく。若い男女は働きに出ているか、どこか寮に入って学校に行っているのだろう。この村にはキリスト教会がない。それだけ、古いアカの風習を守っているのかもしれない。昼下がりの軒先では刺繍に余念のない女性が何人もいた。破れたTシャツ、裸足の子供も結構いる。素朴で人懐こい子ばかりで、心が和む。クルーと一緒にいたので、村の人たちはタレントとは思わないまでも、自分とIさんをテレビ関係者と思ったらしく、カメラを向けてもいやな顔をされることがなかった。役得と言うべきか。
クルーは茣蓙を敷いて寝てしまっているし、村の散歩にも飽きて村を一望する丘の上で休んでいた。すると、アカの正装をした女や男たち、子供も紺の上着を着て、続々と丘に登ってくる。テレビクルーの一団も混じっている。ブランコ祭りの開始だ。
■少女が美しく変身
その昔、アカの女性は森の妖精だった。森が恋しいと泣く妻たちのために、男達は年に一回、森を見下ろす丘の上にブランコを作り、女性達を慰めたという。ブランコ遊びの主体は女性である。きらびやかな衣装をまとった女性の中にひときわ背の高い、鄙にまれみる美女がいる。あれっ、アナウンサーのパットさんではないか。アカの衣装でレポーターを務める。子供たちを集めてさあ、大きな声でハイ、「ホェイモ村に遊びに来てねー」と言わせたり、自らブランコに乗ったり、アカの女性にインタビューしたりと大忙しだ。
夕焼けの空に揺れるブランコ、銀色と紺のシックな衣装の女性達、女性ばかりでなく子供も男も民族衣装だ。その辺のチンコロねーちゃんがアカの衣装をまとうと素朴で清楚な山の乙女に変身する。二人で写真を撮りまくった。アランがいたらどんなにか喜んだことだろうか。（続く）
「TVクルー一同」「アナウンサーのパットさん 」「アカ衣装を着たパットさん」「ミンさん」「アカの少女」「遊びにきてねー」その他祭のスナップ。
