日本から来てくれた(3)
■2日目、ドンサオ島続き
ドンサオ島の変わりようには驚いた。数年前は舟が島に近づくと小汚い子供が集まってくる。彼らは舟から投げられたロープを引っ張って客の下船を手助けしてくれるのだが、親切だからではない。観光客からの小銭目当てである。日本から来た人が小銭を数枚出して子供たちに渡そうとしたところ、年嵩の子が小銭を全部引っさらった。分ける気はさらさらないといった荒々しい取り方だった。それを回りの子は恨めしそうな目で見ている。
観光とは言え、この些事をもってしてもタイとラオスの違いがわかろうというものだ。タイでは十数年前に物乞いを禁止した。目の不自由な人が楽器を奏でたり、歌を歌ってタンブンを受けることは認められているが、基本、物乞いはいない。ドンサオ島の物乞いは姿を消し、ホンモノではないと思うがグッチやフェンデのブランド品を売る瀟洒な店がならんでいた。チェンライよりずっと進んでいる。
舟はゴールデントライアングルの黄金仏を目指して戻る。右手はラオス領で中国資本の高層ビル群、左手はタイ領のチェンセーン、平屋建てのしょぼい建物が並ぶ、ラオスはすでに中国のラオス自治区といった趣である。ただ、未だに建築中の高層ビルがあり、遠目であるがクレーンが稼働している様子が見て取れた。中国経済はボロボロというユーチューブばかり見ているがラオス経済特区への投資はまだまだ儲かるということだろうか。
■バンドゥ温泉へ
ゴールデントライアングルのあとは通常、メーサイに出てミャンマーとの国境、タイ最北端という場所で写真を撮り、中国から来た雑貨、衣類を売る店を冷かして回る、が通例だが、先の洪水でメーサイは大被害を受けた。惨状を目の当たりにすることも憚られ、そのままパス。国境手前から60キロ離れた我が家に戻る。
子供がメコンボート遊覧でかなりの水飛沫を浴びている。親としてはメコンの水にどんな細菌や寄生虫がいるかわからない、心配だ、という。それで家で一休みした後、十数キロ離れたバンドゥ温泉に行くことにした。チェンライにはかけ流しの温泉がいくつかあるが、バンドゥ温泉は市内から10キロほどと近い。湯質は弱アルカリ、かすかに硫黄の匂いがして肌がすべすべになる。
バンドゥ温泉は公園になっていて、無料で利用できる足湯、入場料20Bの温泉プール、それに個室式の温泉施設が2棟ある。手前の個室風呂は数室あって、一人50B、奥にある個室風呂は10室ほどあって一人100Bであるが湯ぶねが銭湯並みに広い。娘たち一行は大きな個室、4名なので180B、一人当たり200円弱であるし、温泉水、冷却水の蛇口が消火栓並みに太く、すぐお湯が溜まる。シャワーはあるがどういうわけか洗い場がないという日本では考えられないデザインの風呂であるが、湯ぶねの深さはちょうど子供の背丈くらい、はじめは怖がったそうだが、すぐ慣れて大騒ぎだったそうだ。
自分は手前の小さな個室風呂、家のシャワーと違って体が温まるし、石鹸でゴシゴシ体中を洗える。泡を流した後、首まで熱い湯に浸かっているとしみじみと日本人に生まれた喜びを感じる。
このあたりから恐竜の化石が出てきたそうで、温泉棟の外にはコンクリ製のトリケラトプスやチランノザウルスなど恐竜の模型がある。風呂から上がってきた子供たちは恐竜に乗ったり、触ったりと大喜び。一般的に男の子は恐竜が好きなようだ。この日は舟にも乗ったし、温泉にも入ったし、恐竜と遊んで1本20Bのアイスもおごってもらったし、兄弟にとってはまあまあの1日だったのではないか。
■友人宅での晩餐
一行2日目の晩餐はIさん宅だった。Iさんとは独身時代の娘と3人でスリランカを旅したことがある。娘もチェンライに来るたびにIさんちでご飯が食べたいという。Iさんの奥さんが作るタイ料理はどこのレストランで食べるよりもおいしい。彼女は近所で何かあるたびに出張料理を頼まれるほど腕がいい。
子供連れではあるし、ご迷惑と思いながらも奥さんの作る料理を楽しみにIさん宅にお邪魔した。テラスから刈り入れの終わった水田が見渡せる。夕陽が落ちると航空機が航空灯を点滅させながらIさん宅の真上を通り過ぎる。乾季の空気が心地よい。
テラスの灯りに誘われて、虫が飛んでくる。子供は食べることよりも虫に夢中だ。捕まえてはホラ、と見せに来る。お蔭で羽蟻ばかりでなく、小さなイナゴやてんとう虫を観察することになった。