パナセリ支援(その2)
A先生から50万円が振り込まれてきた。去年、古希になった、その記念に少額を送るので保育園建設の一助として欲しいとのお言葉もメールで頂いた。実を言うと、先生がほとんど見ず知らずの自分に本当にお金を送ってくるかどうか、不安が無かったといえば嘘になる。逆の立場になったことを考えて欲しい。1、2度会っただけの人に、何の保証もなく、大金を預けるだろうか。それも相手は退職者でわずかな年金を頼りにピーピーしているような人物だ。先生の山岳民族支援にかける熱意と善意に深く感動した。
不足分は兄弟で、またオオサキ氏との行きがかりもあるから、とHさんが5万バーツ出してくれることになった。これで当初の保育園建設に必要な額、40万バーツの目処がついた。支援とか寄付は、お金集めもさることながら、どうやって必要な人に必要な額を確実に渡すか、ということが問題だ。東南アジア貧乏旅行作家として有名な下川裕治氏の著作の中にも友人の遺言でまとまったお金をある国に支援しようとしたが、銀行に振り込むとお金がそこで消えてしまう恐れがあり、かといって、個人に手渡しすれば、その人がお金とともに消えてしまう恐れあり、と困り果てるレポートがあった。
ウズベクにいたとき、地方空港で見ず知らずの人がタシケント空港で待つ人にこれを渡して、と自分に札束を預けようとしたことがある。銀行送金は何日かかるかわからないし、途中でお金が消える恐れがある、また、お金があることが税務署に知れて、有無を言わさずお金を持っていかれる可能性もある。一番信用できるのは託送、それも機内では使うところもないから飛行機で移動する人に頼むのが早くて確実だ、というのだ。これだけ金融システムが信用されていなければ、ウズベクの経済発展は難しいだろうな、と思ったものだ。
タイは中進国であるからウズベクに比べれば金融システムは整っている。問題は誰に、どういったタイミングで、どうやって渡すかだ。チェンマイの日本総領事館では毎月、邦人が犯罪や事故に巻き込まれた例をメールで紹介している。時折詐欺にあう人がいる。総領事館では「大金を信用できない人に渡してはいけません」とごく当たり前のことを呼びかけているのだが、自分の身の回りにもお金を持ち逃げされた人が何人かいる。ある人は、女性と懇ろになり、家を建てましょう、ともちかけられ、30万バーツを払ったが、その女性はお金とともに消えてしまった。
またある人は奥さんの弟に新車の購入を頼み、80万バーツを渡したが、彼は80万バーツとともに消えてしまった。結局、彼は今160万バーツかかった80万バーツの車に乗っている。
ある人は1年以上同棲していた女性と新築の家を見に行った。二人とも気に入って購入しようという話になった。女性がそれでは私が手付金を払うからと1000バーツ、その場で不動産屋に支払った。その人は家の代金100万バーツを銀行でおろした。女性はタイの不動産取引は契約が面倒。私が一人で行った方がうまくいくからと言ってお金を持って不動産屋に出かけていった。結果はいうまでもないだろう。彼女は不動産屋には行かず、お金と共に消えていた。タイ警察はこういった事件をまじめに取り上げない。そんなに大金を渡したあんたが悪いと却ってお説教を食らうのが関の山だ。逃げるほうもまず警察には捕まらないと踏んでいるようだ。
副村長のアダムを信用しないわけではないが、確実、有効にお金が使われるにはどうしたらいいだろう。タイ語のジアップ先生がタイの山岳民族支援団体のやり方を教えてくれた。まず建設スケジュールを立ててもらい、スケジュールの進行具合を確認しながら、何度かに分けて現金を、個人でなくコミティー(委員会)のメンバー複数がいるところで渡す、というものだ。
アダムにも異論はなく、自分の作った支払い計画表の雛形を基に、契約書を作ることになった。契約に先立ってパナセリの復活祭のお祭りに出かけた。丁度、村民集会が開かれ、そこに引っ張り出された。数十名の村人を前に、保育園建設のため、40万バーツをめどに支援をする用意があること、すでに資金は用意されていること、資金はA先生と日本人有志が拠出したこと、10年近く通い続けた自分の大好きな村、パナセリの支援ができる機会を得て本当にうれしい、といったことを喋った。全員が笑顔で拍手してくれたから、意味は通じたのだろう。
その夜はアダムの家に村長や有力者が集まって宴会を開いてくれた。歓待されたあと音信不通、オオサキ氏の二の舞になったら、アダムは二度と村長選に立候補できなくなるな、などと傍らの兄に冗談を飛ばした。ま、これで日本人の信用は保たれるだろう。オオサキ氏がどこかでパナセリのことを気にかけているなら安心してほしいと思う。
*子供と一緒の写真がアダム、他は村民集会、夜の宴会の模様です