■兄の帰国
昨年8月に母が亡くなって、介護ロングステイは終了した。兄と2人で引き続きチェンライでの生活を続けていたが、いよいよ兄がこの7月に片道切符で日本へ帰国することになった。ここ何年か、週のうち、2日はタイ語の個人授業、2日はゴルフ、2日はテニス、そしてマッサージを週2回という規則正しい生活を続けてきた。しかし年のせいか、ゴルフのスコアは伸びないし、テニスも疲れるという。またチェンライの生活では車は必須アイテムであるが、昨今、マスコミを賑わしているように老人の運転は危ない。自覚症状はなくても瞬間的な判断力は落ちているに違いない。いつアクセルとブレーキを踏み間違えて事故を起こすかもしれない。その点、東京に戻れば車の運転をしなくても暮らせる・・・・、まあ、もろもろの理由があって帰国を決意したようだ。チェンライの生活は気楽でいいと自分は思うのであるが、やっぱりお山が恋しいと、というドングリコロコロの心境になったのだろう。
世間ではよくあることらしいが、親の死後、遺産相続で揉めて兄弟喧嘩別れ、絶縁状態になるということではない。兄は気の向いたときだけチェンライで過ごす、いわゆる短期ロングステイを繰り返すようだ。だから部屋もベッドも其のままである。ただ、生活の本拠が兄は東京、自分はチェンライとなる。「チェンライのおすぎとピーコ」と揶揄された中西兄弟もこれで独立活動にはいるわけだ。
■年を忘れる環境
兄は、東京の友人に「10年もタイに暮らしてきたので、考え方などがタイ化していて、日本での生活に適応できるか心配です」というメールを送った。友人からは「日本に戻ったら、老人であるという自覚を持って暮らすことが大切です」というアドバイスメールが返ってきたそうだ。
チェンライで会う邦人といえば日本人会の会員の方が多い。平均年齢70歳とのことであるが、数名いる30代、40代の会員が平均を押し下げているので、日本人会の集まりに出ると周りは自分より年上の方ばかり、という気がする。こういう集まりでの「いや、お若い、とてもお年には見えませんな」の挨拶を交わし合っていると自分でもそうかなあ、と錯覚する。息子や孫たちは日本にいて会うことはないから「お爺ちゃん」呼ばわりをされることもない。
それにタイ人は年寄りには優しい。若い女性でもお金さえ持っていれば年寄りには優しい。(この点については「チェンマイ独居老人の華麗なる生活」http://terute3402.seesaa.net/ に何度も紹介されているので、お疑いの向きはこのブログを参照して下さい) だから青春ならぬ「老春」を謳歌しているご同輩も少なくない。全薬工業販売のビタミン剤、ドックマンに「ドックマン飲んで、年を忘れて元気に暮らそう」というCMソングがあったが、北タイには年を忘れて元気に暮らしている日本の老人が多い。これも異国の恵まれた環境のお陰といえる。
■キレ老人の増加
でも日本はタイに比較し、老人比率が高い。経済学では量が多くなれれば価値が下がるという法則がある。どこにでも溢れかえっているから日本の老人は決して大事にはされない。その自覚を持って暮らさないと日本ではいろいろと軋轢を生むのかもしれない。兄の友人のアドバイス、「老人であるという自覚」の意味は、威張らず、でしゃばらず、皆さん若い方の支払って下さる掛け金のお陰で年金を頂いております、お天道様に背中を向け、社会の底辺で生きるひねくれ者でございます、このくらいのへりくだった態度が望ましい、ということだろう。
ましてや、年長者だからと電車内で席を譲れと強要したり、譲ってくれないからとキレるような真似をしてはいけない。統計を見ると、暴力行為、万引きなどで検挙される老人は年を追って増えている。老人の数が多くなったから、だけではなく、老人人口10万人当たりの検挙者数も増えている。10代、20代の青少年の犯罪率が戦後一番高かった時期は、1965年から1972年までの全共闘世代が暴れ回った時期と重なる。粗暴だった全共闘世代がそのまま持ち上がって、キレる老人集団になったという分析もある。
今や役所でも銀行でもカードの時代、年寄りはパスワードが覚えられず、イライラする。世の中から見捨てられたのではと孤独感を強くし、それが他人に対する攻撃行動、暴言となる。全共闘世代、東京で一人暮し、まだパスモさえ使ったことがないという兄は、立派なキレ老人予備軍だ。友人もいいアドバイスをしてくれたものだ。と書いてきて、自分もクレカのパスワードを忘れるし、全共闘世代でこれから孤独な一人暮し、兄より自分の身を心配すべきか。
仏像に手をあわせ、心の平安を祈りたい。
