チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

アカ族の葬式 1

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アカ族の葬式 (1)

■アカ伝統の葬儀
アカ協会の代表、アトゥから電話があった。8月10日に亡くなったお父さんの葬式を8月31日から9月4日まで行う、よかったら参列しないかとのお誘いだ。
アカの風習に則ったお葬式を見ることはなかなかできない。即座に参列することに決めた。

アトゥには昨年のブランコ祭りの時に大変お世話になった。そのときに彼の父上にも会っている。
今年のセンジャイパタナのブランコ祭りは9月9日だ。葬式は祭りのあとに行うと聞いていた。村の寄り合いで葬式を祭りの前にやることに決まったようだ。

タイではお葬式が1週間続くこともまれではない。だから遺体は棺桶がすっぽり入る冷凍庫に入れておくのが普通だ。町内に一つはこの冷凍庫が常備されている。
冷凍庫の中に安置された故人とガラス越しに対面できるようになっている。暗いので、懐中電灯があってそれを使って顔を覗き込むのだが、自分から見れば悪趣味としか言いようがない。火葬場に持っていく前日には冷凍庫のスウィッチを切って、ゆっくり解凍に入るのだそうだ。

■土葬用の棺作り
昨年、ブランコ祭りのときに泊めてもらったアカセンターへ行った、チェンライ市内から1時間ほどの距離にある。ところがセンターは無人、鍵がかかっている。アトゥに電話をしてみたが協会の事務職員が出てきてアトゥはいない、チェンマイに行ったなどという。
こうした行き違いはタイでは日常茶飯事なのでパニックに陥ってならない。村人を探して、アトゥは来ていないか、と尋ねる。「ここから200m離れた親父さんの家に行ってるよ」。

家の前には村人が数十人集まっていた。テントの下で木棺を削っている。本で見たことがある。大木をくりぬいた舟形棺だ。アカの男ならだれでも持っている山刀で棺とその蓋がぴったりと隙間なく合わさるように形を整えている。働く男たちにアカの盛装をした女性がラオカオ(焼酎)を注いで回っている。

棺に用いられる木は3日前に山で伐採された。伐採された木はすぐに切り出すのではなく1日そのまま山に置かれる、そして3日目に棺作りが始まる。棺はパンロンという木から作られる。丸木舟が作れるほどの太さに育つには南国でも100年はかかるのではないか。

棺の内部が水で清められたあと、女性や親族が棺と蓋の内面に、引き延ばした原棉を山刀を使って張り付けていく。その作業の間にもピマと呼ばれる村の祭司が低い声でアカの口承詩を唄い続ける。ご先祖様、もうすぐあなた方のもとへ仲間が一人参ります、どうか迷わず旅立てるようお導き下さい、ざっとこの様な内容だそうだ。

棺の中と蓋の内面は棉でまるで白い花が咲いたようになった。
これでお棺の完成だ。

■アトゥのお父さん
アトゥの父、アパ・ポチェットの享年は84歳、小柄な愛すべき老人だった。昨年、初めて出会った時、朝から酒の匂いをぷんぷんさせて上機嫌だった。祭りを祝うピマの口承詩朗詠に機嫌よく合いの手を打っていた。

アクシデントで死んだ、と聞いたので交通事故かと思ったが、家の中の事故が原因だったそうだ。棚の上のものを取ろうと、プラスチックのイスの上に乗っていた時、バランスを崩し、倒れて大腿骨を折った。病院に連れて行ったが,年が年だし、もう治らないといわれて、自宅に戻った。戻ってからはもう楽しいことはない、と言って、食事をほとんど採らず、好きな酒も飲まなくなった。それでも1月ほど寝たきりで生きていたが、そのまま眠るようになくなった。骨折しなければもっと長生きできただろうに、と村人たちは残念がっていた。

■入棺
屈強な男たちによって、棺とその蓋が部屋に運び込まれた。部屋の隅のベッドに布をかけられた遺体が安置されている。花輪がいくつも飾られていたがすべて生花だ。
まず棺の中に黒い布を敷く。そのあと光沢のある赤い布が敷かれた。

ベッドの布を取ると頭から足先まで黒い袋にすっぽりと包まれたこけし状のものが現れた。もともと1.5mもない小柄な老人だったし、自ら絶食を選んだので、さらに小さくなったようだ。遺体は祭司と息子のアトゥに抱かれて棺の中にすっぽり収まった。黒い袋の顔の部分が取られた。穏やかな顔だ。近しい人や女性が原綿で唇を湿らせる。愛おしそうに顔を撫でていたアトゥが嗚咽の声を漏らし、涙を拭った。アカの男が泣くのを見たのはこれが初めてだった。

遺体が布で幾重にも巻かれたあと、真新しい衣服、縁起物の布リング、故人の愛用品が隙間なく詰められた。数人の男によって棺に蓋がされたあと、粘土で棺と蓋の継ぎ目が入念にシールされた。この日から4夜、棺は家の中に安置され、5日目に山の中の墓所に埋葬される。(続く)


写真は棺桶作成の様子。内面に綿を敷き、粘土で密閉、竹紐で縛って安置。一番下が元気だった一年前の故人。