愚問愚答
■クオーラ
ネット上で質問するといろいろな人から回答してもらえるクオーラをご存じの方も多いだろう。以前は質問と回答が面白いのでよく読んでいたが、だんだん量が増えてきてこれでは1日の大半をクオーラを読んで過ごさなければならないのではと心配になり、１日に1時間ほど目を通すだけにした。
Fランの大学に行っていますが大学院は東大に行きたいと思います、どうすればいいですか、といったどうでもいい質問と回答は始めから見ない。クオーラにはどうも偏差値とかIQを過信している人、それも若い人が多いように思う。IQが100以下なら人生終わり、とか国立大学さえ出れば幸せな将来が約束されるなどと本気で思っている人がいるみたいだ。山貞の「新々英文解釈研究」で勉強したことがある。その中の「The rich are not always happy．（金持ちが常に幸せとは限らない）」を思い出してしまう。世の中、いろいろなんですよ、10のうち1しか不幸にならないとしてもその10分の1が自分の身に降りかかれば、不幸は自分にとって100％だ。
だからと言って、足るを知る経済を実践していれば貧しくとも心は満たされている。そうです、だからあなたは幸せなんです、わかりましたか？と言われて納得する人は少ないだろう。質問者も回答者も分かっていながら、あまり意味のないやり取りをしているような気がする。
■海外に住みたい
クオーラには時折、「海外に住みたいと思いますが、どこがいいですか」という質問が載る。「海外に住みたいというと否定的な回答ばかり返ってきますがどうしてですか」という質問もある。一応、ウズベクに2年、タイに住んで14年になるから、回答する資格はあると思うが、漠然と海外に住みたいと言われても質問者の意図や背景、資産の有無など皆目わからないので答えようがない。定年後ですが月々100万円程の収入があります、という人なら世界中、どこでも住めますよと言える。なんだったら世界一周のクルーズ船に何年も乗りっぱなしという生活も可能だ。
40歳で貯金はなく、語学もダメ、特殊技能もないという人だったら、日本で働き続けて貯金に励み、年金がもらえるようになった時点でまた質問して下さい、と答えるだろう。
海外に住みたいと思うなら英語圏か、スペイン語圏か、中国かロシアかを決め、その国の歴史、文化、社会を知り、言葉を学び、何度か旅行して、現地感覚を身に着けて、これなら暮らせるという確信を得てから移住しても遅くはない。日本は息苦しい、何か開放的で自分を認めてくれる国がどこかにあるんじゃないか、くらいで海外移住を考えるのは無謀だ。日本より息苦しい国はいくらでもある。天安門でチベット、ウィグルの弾圧をやめろ、バンコクの王宮前で王様は女性関係を正せ、と叫べばどうなるか。
日本ほどいい国はない、無理して異国に住む必要はない、が多くの人の回答だ。海外で成功している人は少なくないが、それなりの苦労と文化摩擦を乗り越える努力を積み重ねてきている。青い鳥は日本以外にある、あなたの住んでいる国はそうでしょ、という質問は愚問である。だから海外移住に否定的な回答はある意味で親切といえる。やる気と希望さえあれば道は拓けます、是非、海外移住を実現させてください、という人は心の奥によほど鬱屈した暗い情念を抱いているのでは、と自分は思う。
■両面有ります
海外移住に関する回答は人によって様々だ。物理や数学の問題のようにすっきり一つの答えで終わり、というわけにはいかない。質問してあれこれ答えを求めるより、自分で行動を起こして、自分で納得して物事を進めていく。それが真っ当なやり方だと思う。
大宅壮一という昭和の言論界をリードしたジャーナリストがいた。新聞も雑誌も事あるごとに彼のコメントを求め、それが大きな影響力を持った。彼は、例えばある人物についてのコメントを求められると「褒めてほしいの、貶してほしいの」と聞き、褒める場合は美辞麗句、この上ない高潔な性格で、有能、数々の実績を上げて褒めちぎる、貶す場合は、人格劣等、無知蒙昧、過去の失敗の数々をあげてこきおろしたという。
大宅壮一に及ぶべくもないが、チェンライ生活はどうですか、と聞かれるならば、褒める場合は、チェンライはこの世の楽園、スコールのあとの美酒マイタイの味、南国の果実、マンゴーやライチについて滔々と語るだろうし、貶せと言われれば、チェンライはタイのクソ田舎、暑いし、ゴミだらけ、蛇も出れば、サソリも来て、などと誰もがゲンナリする話もできる。でも住まわせてもらっている恩もあり、後者の発言は殆どしない。
