チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

日本に戻る理由

 

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銀座交差点 服部時計店

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有楽町方面

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鳩居堂

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松坂屋

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三越のライオンはずっとマスク

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東銀座へ、歩道が広い



日本に戻る理由

 

■やはり「医療と老後」
長らく海外に移住していたが日本に帰国することにした、という邦人は少なくない。その理由は主として健康問題だ。日本の医療保険制度は優れている。米国で盲腸の手術をすると200万円、虫歯を2本治療したら12万円だ。米国で破産する人の6割は高額な医療費が原因と言われている。会社勤めの場合、保険は会社がカバーしてくれるが、退職後は多額の保険料は自己負担となる。これはきつい。

医療水準も問題だ。チェンライの病院でもまあ手術を受けることが出来るが、大手術となれば名医の数は限られるし、手術待ちの時間も長い。自分の場合、左足首の骨折、冠動脈のステント挿入手術でお世話になったが運よく経過はいい。でも日本だったら命を取り留めたんじゃないかなあ、という友人は何人かいる。体の具合が心配ので日本に戻ります、これは賢明な選択だ。

身の回りのことが出来なくなれば、特養ホームに入るという選択がある。チェンライでもマコーミック病院併設の老人施設がある。外人用とはいえ和食が提供されるわけではない。ミートローフを口に運んでもらいながら「コップクンカップ」、ボケるまで外国語ではつらい。「うまいもんが食いてえだよー」と日本語で呟き、お粥と梅干で衰弱していく方が何倍も仕合せだとおもう。

■他にもいろいろ
発展途上国では病気ばかりでなく、盗まれる、殴られる、殺されると治安の悪い国がある。親友が相次いで2人射殺されたので、日本に帰国することにしました、という人がいた。安心、安全において、日本に勝てる国はない。

昨夏、空が暗くなって雷が鳴った、あ、停電するかな、と一瞬、緊張したが、ここは日本だ、と頬が緩んだ。チェンライでは雷イコール停電だ。停電ばかりでなく突然の断水も時々ある。日本のほうが断然いい、という理由はありすぎて書ききれないくらい。

その中で、自分が、ああ、日本にいるんだな、と嬉しくなる瞬間は、人が車内や食堂で話していて、それが100%わかるときである。タイの食堂やスーパーで聞こえてくる会話など始めから諦めている。

エッセイ集を読むことが多い。以下は沢木耕太郎の「スランプってさあ、と少年は言った」から。

ゆるーい部活動をやっているような仲良し3人組がランニングをしていた。彼らとすれ違うとき、一人がこんなことを言っているのが聞こえてきた。「スランプってさあ、あれは次に成長するための心の準備期間なんだって」すると一緒に走っていた別の少年が明るい声で応じた。「そうか、救われるなあ」。そのやり取りを耳にして、私は思わず笑いそうになってしまった。果たして彼らにとっての「スランプ」とはどのような種類のものなのだろう。

文章は、読むことにおけるスランプから映画、米人作家の小説へと展開していく。6ページにわたる文章は『「スランプってさあ、あれは次に成長するための心の準備期間なんだって」というのはなかなか悪くない台詞のように思える。もしそうなら私の「読むことにおけるスランプ」も、いつか解消することになるかもしれないという希望が持てるからだ。』で終わる。

■盗み聞きではないけれど
映画館の休憩時間に靖国通りに面した中華料理店に入った。2階席には若者数人が卓を囲んでいた。近くのH大学の学生だろうか。AI授業で久しぶりに会ったせいか、会話がぎこちない。

女子高だったんだって? はい、とおとなしそうな女の子が答えている。その女子高の通学路には学生服を着たオジサンが立っていたという。思わず聞き耳を立てた。退校時に機動隊の人が見守るようになってからオジサンは消えたとか、警察も大変だ。でも困るのは文化祭の時なんです。誰でもはいれちゃうから。毎年、茶道部に現れて、2千円札で支払いをするオジサンがいた。なんで2千円札なの? さあ。もしかしたら沖縄県の観光課の人じゃない?、つまらぬギャグだが場に合わせようとみんなが力なく笑う。でも女子高の文化祭にオジサンひとりで現れます? 女の子の一言にまた黙り込む。

なかなか含蓄に富んだ話である。沢木さんなら、この問いに3ページ以上に亘って回答と解説を書き連ねるのだろうが、特にグループから「ご意見は?」などと聞かれなかったし、次の映画の上映時間も迫っていたので、麻婆ライスをそそくさと掻き込んで店を出た。

会話が聞き取れたばかりに、変なオジサンの心境はどういったものだろう、などと暫し、考える時間を得た。これも日本に戻っていればこそ、の話だろう。

(なお、知り合いのオジサンの話では最近の女子高の文化祭には入場券が必要とのことです)