チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

熟年ライダー(9)

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熟年ライダー(9)

■渡りの魅力
チェンライから1350キロの遠路を走破してきたのにチュンポン2日目の朝は雨だった。雨音でまだ暗いうちから目が覚めた。7時にホテルの食堂に行ってみるとNさんが所在なさげに珈琲を飲んでいる。「雨ですね」、「雨ですな」。この天気では上昇気流が起こらないからタカの渡りは見られない。台風の影響で雨雲が近づいている。予報によれば天候は悪くなる方向だ。目的地まで来たが、タカの渡り観察は諦めることになるのか。

ところでなぜタカの渡りは人気があるのか。

タカの渡りは日本各地で観察できる。その季節になると多くの人が双眼鏡を持って集結する。その魅力は、との問いにあるホーク・ウォッチャーはこう答えている。まず、理屈ぬきにカッコいいから。大空を悠然と舞うタカの姿にロマンを感じるから。確かに猛禽類の精悍さはスズメやカラスの及ぶところではない。アメリカのドル札や政府機関の紋章には白頭鷲が使われる。インディアンも其の羽を儀式に使っていた。古くはローマ帝国の軍団旗や神聖ローマ帝国の紋章に用いられた。そういえばタイの紙幣にはガルーダ(神鷲)が描かれている。

猛禽類食物連鎖の頂点に立ち、他の鳥を恐れることなく上空を飛ぶ。そして獲物に猛然と襲い掛かって確実に仕留める、そこからF15イーグル、隼、荒鷲など戦闘機の名称にはよく使われている。世界最強の戦闘機と言われるF22ラプターラプターは文字通り「猛禽」の意味だ。バイクや車にも猛禽類由来の商品名は少なくない。芭蕉に「夢よりも現(うつつ)の鷹ぞ頼もしき」という句がある。彼もタカをカッコいいと思ったのだろう。

■なぜ渡りをするのか。
大空を悠然と舞うタカは秋になると日本から、満州から、シベリアから1万キロを飛んで東南アジアに渡っていく。そして春が巡ってくれば再び南方から北を目指す。けなげである。片道1万キロの行程は如何ばかりか。過酷な旅に没する仲間もあろう。それでもタカは渡りを繰り返す。

なぜ、タカは渡りをするのか。

これといった定説はないが、餌と繁殖のため、という説が有力である。
暖かい東南アジアで過ごせば、餌は豊富でいくらでも繁殖できそうな気がするが、東南アジアは常夏だから季節変化がほとんどなく、餌となる両生爬虫類や昆虫類の量もほぼ一定である。そのため、それらを餌にして生息している猛禽類もほぼ一定となる。そんな環境で子育てをするとなると、育ち盛り食べ盛りの子供達の餌が不足してしまい、子孫を残せなくなる。生物にとって子孫を残せないことは種の絶滅を意味し、致命的だ。一方、四季のはっきりした日本や、さらに北の地方では、春から夏にかけて生物が一気に活動し、カエルやヘビ等の餌の量が爆発的に増える。そこで、春に無理をしてでも南方から北に渡り、餌の豊富な地域で、ふんだんに餌を捕まえて子育てを行う。秋になって餌が少なくなればまた東南アジアに渡る。餌が一定なら子育ては難しい。人間社会でも収入が低いと子育ては難しい、は論理の飛躍か。

■環境問題とも関連
一般のバードウォッチングに比べ、タカの渡り観察はまだマイナーだという。中々やってこないタカの群れを待つ。やがて無数のタカが現われる。ああ、今年もスゴイ数だ。これで観察者は満足感に浸れる(らしい)。
Nさんがその昔、乗鞍高原、白樺峠でタカの渡りを観察し、ハチクマ何羽、サシバ何羽と記録を取っていたということはご紹介したと思う。各地の観察者の記録は一カ所に集められ、その数値から日本の環境問題が浮かび上がってくるという。餌となる昆虫類、両生爬虫類が減れば渡りは少なくなる。餌が少なくなった理由は農薬のせいか、それとも気候変動の影響か。温暖化が進めば日本北部の餌が増え、北海道のタカ類が増える。

でもこういった地道な努力、活動をしているのは日本くらいだと思う。タイでも各地でタカの渡りが観られるそうだが、タイ人が環境問題とタカの渡りを関連付けて何かやっているという話など聞いたことがない。

■天候回復
Nさんとガーデンホテルの食堂で駄弁っているうちに、外が少し明るくなってきた。雨も小やみになってきた。タイの天気は雨と思っていてもすぐに晴れてくる、あるいは一天俄かにかき曇り、と目まぐるしく変化する。行けるんじゃないですかね。タカの渡りは9時から11時頃までという。時刻は8時過ぎ、バイクに跨るときには雨は上がっていた。カオ・ディンソ―展望台までは30キロ、30分の距離だ。曇りながらも気温も上がってきた。上昇気流が生じるかもしれない。展望台に到着した。でも茶店は閉っているし、我々二人以外人影がない。果してタカは飛ぶのか。



写真は白頭鷲、ドル札に印刷された鷲、アメリカインディアンのウォーボンネット、F22ラプター、バーツ札の神鷲、神聖ローマ帝国の紋章