ロングステイ3年説
Oさんが帰国した。DVD、書籍など私物を親しい人に分け与えての帰国だからもう戻ってこないのだろう。ロングステイヤーとして10年近く、チェンマイ、チェンライに暮していた。我々がチェンライに移り住んだ時、先輩としていろいろアドバイスをしてくれた方だ。帰国の理由は定かではない。健康上の理由ではないかという人もいる。
確かに、こちらの病院や治療方法に不安を持ち、日本で入院生活を送って戻ってこない人もいる。彼は独身で、タイ人の係累はないから帰りやすいといえば帰りやすい。ゴルフが趣味で、週何回かグリーンに出ていたから、ゴルフはやるだけやった、という満足感はあるのではないだろうか。ロングステイは永住を意味するものではないから、何かに疲れたら、日本に戻って安心して医療措置を受ける、日本の四季と繊細な食べ物を楽しむ、ということも選択肢の一つであり、それはそれでいいだろう。Oさんのこれからの穏やかで健康な毎日をお祈りしたい。
ロングステイ3年説というものがある。タイは微笑みの国、ゴルフの好きな人にとっては信じられない値段でプレイが楽しめる。それにタイの料理は美味しい。どの屋台でもそこそこの味だ。現地の人でにぎわうレストランに行けば、間違いなく美味しい料理に出会える。バンコク、チェンマイはもちろんチェンライでも日本料理店が林立していて、タイ料理に飽きたらいつでも和食が食べられる。プーケット、パタヤ、ホアヒンなどのビーチで楽しむイセエビなどの海鮮料理とトロピカルフルーツ。
電気代、電話代などの公共料金は日本の10分の1、豪華コンドミニアムを購入しても数百万円、お手伝いさんの月給が1万円、電化製品、日用品、食材も安い。日本では高級果実とされているマンゴスチンやドリアンは100円ほどで手に入る。熟年でも愛想よく接してくれるナイトスポット、俺は本当はもてるんだ、と自信が回復する(そうだ)。1時間100Bからあるマッサージ、高級リゾート・スパに行けば、タイの上流階級と同じサービスが受けられる。それに親切で穏やかなタイ人、ワイという手を合わせる挨拶も初めは新鮮に感じられる。仏教行事やロイ・クラトン、ソンクランなど数々のお祭り、見るもの聞くもの珍しく、カルチャーショックもそれなりに楽しくて、スコタイ、アユタヤ、カンチャナブリなど国内や近隣諸国の小旅行はもちろん、知らない市場をちょっと覗いてみるだけでもわくわくするだろう。
タイ政府観光庁の発行する夥しい数のパンフレットはもとより、タイのロングステイの素晴らしさを書いた本や雑誌はどこにでもある。しかし、永くタイにすむようになると、安さ自慢にも飽きてくる。あれだけ美味しいと思ったタイ料理も、何だ、何でも炒めて牡蠣油で味付けしたものばかりじゃないか、バーミーナムも皆同じような味付けだ、とタイ料理嫌悪症に陥る。日本食はどこでも食べられますよ、と聞いてはいたが、食材が限られていて出てくる料理はどこでも同じということに気づく。
タイで暮らすうちに金銭感覚が違ってくる。初めは安いと思っていたが一束5バーツの菜っ葉や一個10バーツのスイカを買っているうちに、けちになってきて、日本食の店に行くのがもったいなく感じられてくる。そう思うと俺はけちになったと自己嫌悪に陥る。楽しかった物見遊山も2,3年いるうちに行くべきところは行き尽くしてしまい、出かけてもどうせ同じようなものだろうと出不精になってしまう。狭いながらも楽しかった日本人グループの面々とのお付き合いも話が同じパターン、同じ噂話、またあの自慢話を聞くのか、と会いに行くのも億劫となる。
そうなるとばら色であったはずのロングステイが退屈で残された人生の無駄遣いとしか思えなくなる。惰性でこのような無意味な生活を送るなら、やはり日本がいいよな、と里心が付いてくる。タイに自分の居場所はない、よし、日本に帰ろう・・・・大体これがロングステイ3年目。
これからタイにロングステイしようという人もいるだろうから、余り欠点を書くといけないのかもしれない。しかし実際にこういった仕儀に陥る人は少なくないと聞く。これを防ぐには、日本にもタイにも拠点を持ち、2ヵ所滞在を無理なく繰り返すことがよいそうだ。更にいえば、多くのロングステイヤーのようにタイ人の配偶者を持ち、もう帰るところはない、ここで骨を埋めると覚悟を決めることだが、たかがロングステイ、そこまでする必要もないだろう。まあ、ロングステイに限らず何事も思いつめない方がいいと思う。
画像は、ロイ・クラトンを前にしたチェンライのナイトバザールの賑わい