タイへ出発 2
東京から成田-バンコク往復の費用は正規運賃の場合、25万円ほどだ。格安航空券だと3万円から、キャンペーンの場合は2万円以下というチケットもある。しかし、安い切符はそれなりの条件があって、空港に深夜0時過ぎに到着する、あるいはバンコク直行ではなく、台北や上海、ソウルを経由して、と直行便に比して時間がかかる、タイ滞在可能日数の制限といった欠点がある。だから安いともいえる。
我々の場合、深夜、車椅子の母を連れて空港内をウロウロしたくないし、搭乗時間は短いに越したことはない。またできるだけ乗り換えを避けたい。それで、成田からチェンマイ行き、それも日本を午前中に発ち、その日の夕方にチェンマイに到着する便を選んだ。
格安航空券をネットで探し、チェンマイ行きを3枚購入する。ネットで申し込み、確認が来たところで代金を銀行振り込みする。すると、搭乗カード発行に必要な事項を書いた用紙がネット送付されてくる。これをA4の紙にプリントアウトして出発当日、成田のタイ国際航空カウンターに持っていけば、搭乗手続きが始まる。いわゆるEチケットと呼ばれるものだ。
以前は、「日の丸ツアー」とか「ワールド・ツアー」というポスターが貼られた空港内の特別な場所で、旅行会社の人からこっそり切符を貰ったものだ。これはなかなかスリルがある。旅行代理店が代金を持ち逃げして、切符が貰えず多くの人が成田で立ち往生という記事が、時折新聞に載っていたころの話である。
格安航空券ではあるが、介護が必要な83歳の女性を含む3人連れ、と知らせたら、早速、代理店から電話が来て、介護の度合い、機内歩行の可能性などを問い合わせてきた。更にはタイ国際航空の担当課と、車椅子の寸法、重量、どこから空港内の車椅子に乗り移るかまで詳細に打ち合わせることが出来た。車椅子を押すと、旅行手荷物を持つことができない。やはりタイ行きの介助は兄と二人必要だった。
空港のタイ国際航空のカウンターに行くと、すぐに男性係員がやってきて、我々3人を一般客とは別の職員専用カウンターを通って、待合室まで連れて行ってくれた。搭乗に当たってはまたこの係員が現われて、1番先に3人を機内へと案内してくれた。タラップまで持ち込みの車椅子でいける。
午後になると母がいつものように興奮して、前座席を叩いてちょっとお兄さん、などと呼びかける。鎮静剤と睡眠薬を飲ませたが、これが効き過ぎると、大韓航空機を降りる金賢姫のように両側から支えないと歩けなくなる。母は軽い興奮状態が続いたが、何とかバンコクまでの6時間を持ちこたえた。
チェンマイ直行かと思ったが、バンコク、スワンナプーム空港で乗り換えるらしく、乗客が全員降りた。座席で待っていると、出口と反対側のドアが開いて、4畳半ほどの箱部屋が現われた。昇降機付きの車が横付けされている。車椅子を持った若者が甲斐甲斐しく母を乗せてその部屋に案内する。車は広い空港内をゆっくり走って、国内線乗り換えビルの前で止まる。
若者はずっと母の車椅子を押して、我々の入国手続きを手伝い、チェンマイ便待合室まで連れていって搭乗まで付き添ってくれた。
チェンマイ空港でも車椅子と係員が待機していて手荷物受取のところまで面倒を見てくれた。(画像)このように出発カウンターから到着地税関まで、誰かが車椅子を押し、介助してもらえた。有難いことである。
チェンマイではインペリアル・メー・ピンに投宿した。室数371の4星ホテルだ。ここは日本人のオジサンに人気がある。というのはアジアの歌姫テレサ・テンの常宿であり、彼女が2005年5月8日に亡くなった場所でもあるからだ。日本でのネット予約ページでは1泊1名1万2千円となっていたが、米国のヤフー経由、英語で予約したらエキストラベッド付き、3名1室で65ドルだった。もちろんテレサ・テンはこんな安い部屋ではなく1泊5万円のスィートルームだったとのこと。
テレサ・テンも利用したであろうホテル内の中華料理店で夕食をとった。母はレストラン内でも、おなかが痛いといい続けている。(続く)