チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

琵琶湖を訪ねる

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琵琶湖を訪ねる

フィヨルドを想わせる
高校時代の友人が夫婦で奥琵琶に行ったという。いいところだから行ってみろよ、遠藤周作が北欧のフィヨルドみたいだと書いているよ。パヤオ湖には10回以上行っているが琵琶湖には一度も行ったことがない。浜名湖と違って新幹線から見えないから見たこともない。

ところで遠藤氏が北欧のフィヨルドと形容したのは湖北の菅浦(すがうら)のことらしい。
「やがてその湖の奥にたどりついた。二月の午後、入り江のようなその地点の周りの山々は白雪に覆われ、冬の弱い陽をあびた湖面は静寂で寂寞としていた。車からおり、コートのポケットに手を入れ、私は長い間、まるでスウェーデンノルウェーフィヨルドに来ているような思いだった。」『万華鏡』-忘れがたい風景-から。

遠藤氏ははっきり「菅浦」とは書かず、年に一度は訪れる忘れがたい風景のある場所で「これから冬にかけてそこを一人で訪れる方は決して失望しないだろう」と記している。更に、教えたくはないのだが、と前置きをして『私の「忘れがたい風景」のある場所は、芝木さんの本を読み、探し歩いて、「ああ、ここなのか」と見つけられることをお奨めする』とヒントを出している。

■「群青の湖」
芝木さんの本とは芝木好子の長編小説「群青の湖」のことだ。「群青の湖」で菅浦は次のように描写されている。

「岬へと進むほどに深山幽谷の眺めになって、町で見る湖とは趣が違う。つづら折りの湖畔をまわりきって、視界が変わり、広々とした湖の浦が現われた時、その岸辺に打寄せられたように小さな集落があった。
風光の清らかな、寂とした、流離の里である。入り江に沿って漁船が舫っているが、人の姿はない。閉ざされた集落だが、どこからか侵入者を監視する眼を感じる。
里の入口に湖に面して神社があり、石の鳥居が立っていて、鬱蒼とした木立の山を背に、奥深く参道が伸びている。鳥居の脇に古びた要塞門があって、由緒ありげな隠れ里を思わせる。雪の残る山は深く敬虔な雰囲気を持ち、浮世の外に取り残された流謫(りゅうたく)の哀しみが漂って、心が惹かれた。」

美しい文章である。菅浦は湖岸まで山が迫り、かつては舟でしか渡りようのない僻地だった。菅浦の地には、奈良時代恵美押勝の乱道鏡孝謙上皇に負け、廃位になった淳仁天皇が住んでいたという伝説が残っている。淳仁天皇は、幽閉地で憤死したといわれており、芝木さんのいう「流謫の哀しみ」とはこのことを指すのだろう。

■雨の菅浦を見下ろす
6月に一時帰国した折に琵琶湖1周のドライブに出た。琵琶湖は北の部分が膨らんでいて南に下がるにつれて細くなっている。タイの地形は象の頭に似ていると言われ、北から中央にかけて膨らんでいて、南のインドシナ半島ですぼまっていく。琵琶湖とタイ国の形には類似性があると言えなくもない。そうするとタイのチェンライに当たる部分に奥琵琶の菅浦がある。琵琶湖北岸の葛籠尾崎(つづらおざき)のつけ根にある菅浦。「かくれ里」と呼ばれた菅浦は昭和46年に奥琵琶湖パークウェイが開かれ、その沿道には4000本の桜があり、春はお花見、秋は紅葉を楽しむ人で賑わうという。

菅浦の集落を右に見ながらドライブウェイを葛籠尾崎の展望台まで登り切る。時折降る雨が広い駐車場を濡らしていた。あいにくの梅雨空で灰色の雲が湖に覆いかぶさっていた。菅浦は展望台の右下に霞んで見えた。湖岸の集落の後ろには急峻な山が迫っている。遠藤さんや芝木さんは冬の菅浦を推奨しているが、雨雲の下にひっそりと佇む集落と北琵琶のやや暗く寂しい湖面もなかなかの景観だった。まだここは中国人に知られていないのか観光客が殆どいないのもよかった。

■優しい風景
展望台から集落と湖面をしばらく眺めただけで車に戻った。菅浦の集落を訪れたい気持ちもあったが、先を急いでいたし、雨足がいくらか強まっていた。生きていればまた来る機会はあるだろう。タイの名所を後にするときと同じ思いを抱き乍ら北陸道へと下る。
道路の両側には木立が茂っている。チェンライの国道からも林が見えるが、滋賀の、というより日本の木立はタイのそれよりも柔らかく、たおやかである。琵琶湖だってパヤオ湖とは明らかに趣きが違う。

脈絡もなく曽我ひとみさんの詩が脳裏に浮かんだ。「今、私は夢を見ているようです。人々の心、山、川、谷、みんな温かく美しく見えます。空も土地も木も私にささやく。『お帰りなさい、頑張ってきたね』 ・・・・」。

自分はちっとも頑張っていないのになぜか胸が熱くなった。友人が言った「いいところ」の意味はこれだったのか。



奥琵琶のフィヨルド