介護ロングステイ8年6ヶ月
■医療費ゼロ
タイに来て8年半が過ぎた。母の容態は変わらない。6月末に弟夫婦がチェンライに来た。二人は毎朝、母を見舞いに来る。母に寄り添って何かと声掛けをするがはかばかしい反応はない。自分のせいではないが申し訳ない気になる。4,5年前までは声をかけると「大丈夫だよ」、「そうなの」とか答えてくれたものだが。
こちらに来て何年かは月に一度は病院に通い、薬を処方して貰っていた。向精神薬を始め、胃薬、カルシウム剤、アスピリンなど5,6種類あった。どういうわけか1儖幣紊梁腓な錠剤の薬があり、ブアさんが飲ませるのに苦労していた。そのうち潰したバナナに包んで飲ませる方法を編み出したので、母の難儀も少なくなった。食後に飲む薬、朝晩2回の薬、寝る前の薬などブアさんも大変だったと思う。でも4年ほど前に薬をすっぱりやめてしまったので、母とブアさんの負担は減った。薬を飲まなくなってから夜に興奮することが無くなり、容態が落ち着いたように思う。向精神薬は感情が不安定になるし、量が多すぎて意識を失ったこともある。治る病ではないから、と医師の処方もいい加減だったのではないか。
薬をやめても整体の理学療法は続けていたが、昨年の7月にそれも中止した。再び歩行できるようになるのでは、と始めた理学療法であったが5年やっても効果が出なかった。それが止めた理由である。それに足の曲げ伸ばしの時など母が大声を上げ、それほど楽しそうではなかった。却って苦痛ではなかったか、もっと早くやめていればと悔やまれる。
化粧品メーカーの人から聞いたことがある。高価なクリームをお買い上げの奥様から「これをずっと使っているけれどシワは減らないみたい」というクレームを受けた時は「奥様、シワがそれくらいで治まっているのはこのクリームをお使いだからでございますよ」と答える。そう云えば納得して頂けるとか。
でも「お母様ががまだご健在でいらっしゃるのは、ちゃんと薬を飲み、5年も整体をやった成果でございますよ」、こう言われても自分としては納得できない。
■全額自己負担
日本に3カ月以上滞在する外国人には国民健康保険が適用される。中国や韓国に戻った時に手術を受け、高額な医療費がかかったと国保の還付を請求するケースが後を絶たない、これが海外医療費還付制限の理由の一つだと言う。タイでも「先生、ひとつこういった診断書と領収書を作って下さい」と頼めば、適当な書類を作る医師はいると思う。市町村の国保担当窓口ではその真偽の確かめようがない。
海外医療費還付の代理人申請が認められなくなったので、母の医療費は100%自己負担となっているが、不正受給がそれで防げるならば仕方がない。
還付の不正受給ばかりでなく、外人が日本の医療を食い物にしているケースはほかにもある。7月18日付毎日新聞から。
医療費未払い調査、外国人旅行者急増で 厚労省方針
訪日外国人旅行者が急増する中、滞在中にけがや病気で病院にかかり、医療費が未払いになるケースが増えているとみられることから、厚生労働省は未払いの実態調査に乗り出すことを決めた。 近畿運輸局が昨年、大阪府で実施した調査では、訪日客を受け入れた病院の30%で未払いが発生。旅行保険に入っていなければ全額自費払いになるため、救急病院にかかり1件で約800万円というケースもあった。
毎日新聞だからはっきりとは書いていないが、中国人が観光ビザで入国し、救急車を呼んで運び込まれた病院で白内障や胆石の手術を受け、入院費から一切合切、踏み倒して帰国してしまう。始めからそのつもり、故意としか考えられないケースもあるという。
■性善説
本来、対価を支払わずにサービスを受けようということは許されない。レストランで金はないけどステーキを食わせろ、と言ったら追い出される。しかし、医療は別だ。医師法19条では医師は診療を拒んではならない、と規定され、さらに厚生省通達で医業報酬が不払であっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない、となっている。
アンタ、ちゃんと治療費支払えるの?、などと聞いている間に病状がひどくなれば、患者、家族に訴えられかねない。タイでは保険に入っていなければまともな診療は受けられない。母が入院した時は、2日おきに掛かった医療費を現金で請求された。支払が遅れたら追い出されただろう。
日本は性善説で、医療費を踏み倒そう、誤魔化そうという人の存在を予想していなかった。医師法を改正してタイや米国並みにすれば、と思うが、これも憲法改正くらい難しいのだろうか。
写真はチェンライの市場から