チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ7年10カ月

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介護ロングステイ7年10カ月

■風邪が流行っている
タイに来て7年10カ月が過ぎた。タイは雨季から乾季への季節の変わり目で自分の周りでも体調を崩す人が多い。しつこい咳と喉の痛み、が昨今の風邪の特徴だ。自分も10月に咳が止まらなくて少々苦しい思いをした。メバーンのブアさんが心配して薬を呉れる。ティッフィなど市販の薬ならば、服用量、効用などある程度見当がつくのであるが、お寺でもらってきた丸薬となると皆目わからない。薬事法でどうなっているのかわからないが、こちらのお寺では、僧侶特製の万能薬を販売している。タイ語のジアップ先生は、「ヤー・シー・ダムダム(黒い薬)」と言って、庶民がお寺で購入する薬をハナから信用してない。お寺の薬は固い正露丸といった感じ、そのほかに顆粒状の薬もある。何に効くのかわからないが飲むとかなり眠くなる。一に睡眠、二にストナというCMがあるくらいだから風邪にはまずは睡眠。お陰で回復したようだ。

母の年だとちょっとした風邪も命取りとなりかねない。でも睡眠は日中、ほとんど寝ているし、ブアさんたちが小まめにタオルケットを掛けたり剥がしたりしているせいか風邪の症状は出ず、いつもと変わらぬ毎日を過ごしている。日中寝ているということは夜中に起きている時間が長く、その間、声を発し続けている。暗いと不安になるのだろうか。。以前は二階にまで届くような大声を上げていたが、今ではほとんど聞こえない。傍らにいるブアさんの話だと午前2時くらいまで手を動かして声を上げる。以前は兄の名を呼ぶことが多かったが、最近は「オトーサン」ということが多いとのこと。母は父親(自分から見て祖父)とそれほど仲がよくなかったように思うが、思考が退行していくにつれて幼いの時の記憶に戻っていくのであろう。兵隊さんは、「お母さん」と言って死ぬというが、女性は「お父さん」と言って亡くなるのだろうか。

■母の傍らで
10月中旬に兄が一時帰国した。夜食を一人で摂っている時、母が何やら声を上げる。何を言っているかはわからない。とりあえず、「お母さん、大丈夫だよー」と声をかける。メバーンのブアさんが、「ただ声をかけるだけではだめだ、お兄さんのように傍らに寄り添って、体に触れながら声をかけなさい」と命令する。そこまで言うか、と反発したくなるが、確かに兄に比べ、手抜き、親不孝という気がしないでもない。食事が終わってから、母の横に寝て、母の腕をさすりながら、「今日も元気で良かったね、もうすぐ兄ちゃんも東京から帰ってくるからね」などと話しかける。はかばかしい反応はない。数年前は母の横で寝ながら、いろいろな話をしたものだ。そのうち、そうなの、と相槌を打つ程度に言葉が減っていった。言葉は出さないがこちらをじっと見ていることもあった。今は自分が傍らにいることも理解できないようだ。

悲しいが仕方がない。少しでも刺激になれば、と歌を歌う。「ギンギンギラギラ夕日が沈む、ギンギンギラギラ陽が沈む」。歌いながら幼い自分と若く自信に溢れていた母を思い出す。夕陽の中、自分が体重をかけて手を引っ張っても母は全然動かなかった。今はその手も細く真っ白だ。団地の中を車いすを押しながら、一緒に歌ったことがある。歌の上手な人だったが、こちらで母が歌う「夕陽」はしゃがれて音階も定かではなかった。それも自分にとっては20代の母の想い出と共にかけがえのない一瞬となるのだろう。

■弟夫婦がまたチェンライへ
11月初めに弟夫婦がやってきた。ここ1年、2ヶ月毎に高松とチェンライを往復している。二人で86キロの荷物を持ってきた。トランクの中身は日本の食材、お陰で自分の食生活が一挙に向上した。夜食は弟夫婦と一緒。アジの干物、塩じゃけ、冷凍でステーキ用牛肉まで持ってきてくれた。少々値段は張るが、日本食材をチェンマイでも購入できるというが、到来物の味は格別。母は歯がないので固形物は無理だが、各種ふりかけをもらったので、卵、野菜入りお粥にいくらか味のバリエーションが付くものと思われる。

弟夫婦は朝夕の日課として母の見舞いに来る。朝食前に長椅子に座った母に話しかけるのであるが、どうも反応がはかばかしくない。はっきりと二人を見据えることもない。ただ、携帯で孫の様子を見せた時、長い時間ではないが携帯の画面に目の焦点があったようだ、と二人は言う。左目は脳萎縮の関係で見えなくなって久しい。右目の視力もほとんどなくなったように思うが、すでに91歳、回復することはないのだろう。