チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ6年10か月

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介護ロングステイ6年10か月

■ほとんど笑わない
古いブログを読み返してみると、4年前はまだ母は歩けて会話もできた。3年前には自力歩行ができなくなっているが、兄の顔をじっと見て「お前はいい子だよ」と言ったと書いてある。この頃を境に言葉がはっきりしなくなった。現在は、ベッドからソファに体を移す時、着替えの時、あるいはトイレに連れていくときに、アー、アーと顔をしかめて意味のない呟きを漏らすだけである。ここ3年、母の笑顔を見たことがない。それでも時には楽しいことを思い出すのか、声をあげて笑ったことがあるらしい。その時は女中さんが、ママさんが笑った、ママさんが笑ったと走って報告に来たものだ。

弟が3年ほど前、空手の真似をして見せたら、母が笑ったそうだ。NHKで毎年募集している「介護百人一首」の中に「笑えない母をなんとか今日こそはどじょうすくいを毎晩おどる」という短歌があった。どこのお宅も同じようなことをしているのだなあ、と思ったものだ。四国の弟宅に転がり込んだとき、徳島の阿波おどり会館を案内してもらった。地元の名人連による阿波踊り披露のあと、フィナーレで観客総出の阿波踊りがあった。そこで弟は100人中第2位に選ばれ、名人から表彰状と手ぬぐいをもらった。弟の阿波踊りで母が微笑むかもしれないが、やはり三味線や鉦、太鼓のお囃子、若い女性の嬌声が入らないことには気分が浮き立ってこないだろう。

■母が幸せかどうか
兄弟3人が揃って、お母様もお幸せでしょう、というメールを頂いたが、それほど母は嬉しそうではない。どうも弟や嫁さんを認識しているか疑わしい。自分が呼び掛けてもあさっての方向を向いて何か呟いている。手を握っても肩を叩いても変化はない。でも、兄がもうすぐ日本から戻ることを告げると、自分の目を見て頷いたりする。ほら、何でも分かっているんだよ、と弟夫婦に言うのだが、いつもこのように確たる反応が返ってくるわけではなく、その日の調子によるようだ。
弟夫婦は歩いて3分ほどの同じ団地内の一軒家に住んでいる。朝夕、夫婦で母を見舞いにやってきて、話しかけたり、体をさすったりする。少しは母も嬉しそうにしてほしいと思うのだが、今日も調子が良くないようだ、と諦める。

弟は兄と自分に母の世話をさせて申し訳ない、と思っていたらしい。別に自分は気にしていなかったし、それよりもお義母さんが長らく療養生活を送っていて、その介護に専念していた。今年初めにお義母さんが亡くなった。それで晴れて、プチロングステイができるようになった。母の介護の手伝いもできる。

母が幸せかどうかはわからないが、タイに来たおかげで我々兄弟は、幸せに暮らしているといってよいと思う。これも女中さんはじめ、たくさんの人々の助けがあってのこと、いつもありがたいと思っている。

■ バナナ
ここ2,3年、母の容態には変化がない。食欲も変化がない。食事内容もほとんど変化がない。卵、野菜入りのお粥、これにフリカケ、カボチャなど噛まずに食べられる惣菜。あとは毎食、3本のバナナ。バナナは1日9本ということになるが、母の体調が変わらないのはバナナのおかげではないかと思っている。タイの赤ン坊の離乳食はバナナ、老人の介護食もバナナ、タイ人の人生はバナナに始まってバナナに終わるといっても過言ではない。母の食べるバナナはブアさんの里から取り寄せているずんぐりむっくりした種類のバナナである。これが老人食に向いているのだという。タイに来てバナナにもいろいろな種類があり、味や色はもちろん、年齢によって食べていい、よくないの区別があることを知った。バナナの中から直径5ミリほどの種が出てきたことがあって、自分としては大ショックだったが、母のバナナは女中さんが食べる直前に手で潰すから、異物が入る心配はない。

■メーコック川
ママさん、ケンレーン(健康)、と言いながら匙を母の口に運ぶ女中さんであるが、最近は、ママさんはいつごろ死ぬんですか、などと聞く。アチャ、ピーナー・ターイ(多分、来年死ぬよ)と答えると、去年もそう仰ってました、と笑う。
もし、私たちがいなくなったらどうします?と言うので、その時は、ママさんをチェンライを流れるメーコック川に運んでって捨てちゃう、と答えた。それはバーブ(悪行)です、と真面目に怒っていたが、その後、市場、村の人、団地の知り合い、誰彼となく、ママさんをメーコックに捨てちゃうなんて言ってんのよー、と触れ回ったようだ。もちろん、みんな冗談と分かって笑っているのだが、やはり冗談にも言うべきではなかったかと反省している。



写真は阿波おどり会館、表彰式、母用バナナ、メーコック