チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

タイのコーヒー 4

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タイのコーヒー(その4)

コーヒーがあまり好きでなかったのは、コーヒーの苦味で胸焼けがしたり、気分が悪くなったことがあるからだ。しかし、こういった症状がでる場合、原因のほとんどが酸敗したコーヒーを飲んだせいだという。コーヒーの豆や粉は生ものであり、鮮度がある。昔の喫茶店ではでは鮮度の管理をしていない店が結構あった。コーヒー豆は焙煎してから約2週間が賞味期限だ。それ以上たつと腐敗していくことになる。家庭では、日本茶の感覚で余りコーヒーの鮮度を気にしていない例が多く、一月以上前に買った挽き豆を平気で飲んでいたりする。実は自分もそうだった。

「恥ずかしや、医者にカツオの値が知れる」という古川柳がある。初鰹と意気込んでカツオを食べたのはいいが、鮮度の悪い安いカツオだったためお腹を壊してしまった、そんな江戸っ子をからかう句だ。コーヒーがあまり好きでなかったのはコーヒーに鮮度があり、本物のコーヒーを知らなかったからである。恥ずかしや、タイで珈琲の無知を知る。タイに来て美味しいコーヒーに出会ったのは実に幸いであった。

コーヒー豆は挽いて粉にしてしまうと表面積が増えた分だけ空気との接触面積が増えて、急速に酸化が進む。焙煎豆の中にある揮発成分がどんどん空気中に逃げていって、コーヒーの芳香が失われる。挽く頃合は、何といっても抽出する直前がベストである。花園珈琲ではもちろん淹れる直前にお客の目の前で豆を挽く。豆を毎日のように土鍋自家焙煎しているので、焙煎豆の鮮度は申し分ない。挽いたばかりの豆を高性能エスプレッソ・マシーンにかける。自分が注文するのはアメリカン・テイスト、深炒りの豆を高速、高温で抽出する。ミルクと砂糖を多めに入れることによって、苦味が中和され、コーヒー本来の味が楽しめる。アメリカンと聞くとアメリカ人との会議の時、セルフサービスで飲む麦茶のような薄いコーヒーをイメージするが、花園珈琲の「アメリカーノ」は重厚かつ個性的である。

初めて花園珈琲でアメリカーノを飲んだとき、その味わいに瞠目したのだが、更にその値段を聞いて愕然とした。このこだわりのハンドメイドコーヒーが一杯わずか20Bなのだ。他にもエスプレッソ20B、カプチーノ25B、コーヒーゼリー、ミルクムース、抹茶ムースが15B・・・・

タイのコーヒーを1日20杯の目標で飲んで、その感想をブログにしている人がいる。タイのコーヒーはインスタント物を別にすれば、一杯50-60B、高いところで80B以上、40Bならば安いです、と書いてある。だから花園珈琲の価格は誰もが驚く価格設定なのだ。どうして、とMさんに聞くと、「このあたりはチェンライの田舎、タイソバが一杯20Bです。ここの村に住む人たちにとって食後のコーヒーが昼食より高いなんておかしいでしょ。村の人に飲んでもらえるギリギリの価格が20Bになったというわけね」
「地元にはコーヒーなど飲んだことのない人も多い。そういった人が初めて飲むコーヒーが私の淹れた本物のコーヒーだったら、そしてまた気軽にやってきてコーヒーを楽しんでくれたら、嬉しいの」

一般に価格はコストに利益を上乗せしたところで決まる。しかし、それは売り手からの発想であって、その価格がマーケットに受け入れられるとは限らない。まずマーケットが受け入れてくれる価格を設定し、その中でコストを抑え、利益を得る、という思考法でないとビジネスはうまくいかない、と経営学の本には書いてある。しかし、そのマーケットから引き出された価格がわずか一杯20Bだ。厳選した最高級のアラビカ種の豆を使って、本当に利益が上がるのだろうか。もっと高くしてもみんな飲むよ、と邦人客は言う。でもMさんの目線は村の人が気軽に飲めるかどうか、なのだ。Mさんはいう。「食べていければ充分、もし赤字になってもこの店を続けることが、私の長い人生にとってきっとプラスになるんじゃないかって思うんです」

花園珈琲の美味しいコーヒーは日本女性Mさんの志、心意気によって支えられている。自分の満足のいくものを供給してお客さんに喜んでもらいたい、この考え方は戦後日本の経済発展を支えた日本人のエトスではないのか。利益はきっと後から付いてくる。花園珈琲の花が大きく開くのはそれほど遠くないような気がする。(まだ続く)