





相模湾の鯵
■広い選択肢
帰国して歯科治療、健診を済ませ、友人と会ったり、映画を見に行ったりと有意義な時間を過ごしている。何を食べても何を見ても「あー、これはチェンライにはない」と感動している。
スーパーのビール売り場では多様なビール、発泡酒の種類に驚く。タイのビールメーカーはシンハ、リオ、チャンの3社の寡占であるが、各社1,2種のビールしか出していない。日本のビール、例えばサントリービールのラインナップはモルツをはじめとして20種類あるそうだ。さらに発泡酒となるとアルコール度6%とか糖質ゼロとか種類が多すぎてどれを買っていいのか迷うくらいだ。日本の消費者は選択眼は優れているから数あるビール、発泡酒の違いを見極めて、好みのビールを購入するのだろう。広い選択肢は
ビールのみならず、珈琲、マヨネーズ、麺類など多岐にわたる。帰国して自分に合った食品を選択し、食す、は日本ならではの小さな幸福と言える。
それに日本のスーパーの商品配置は美しく、また整然としている。チェンライのスーパーでは空っぽの商品棚がある。売り切れになっているのに補充がないからだ。買おうと思っていた商品が次の日行ってみたら無い、ということもよくある。商品を並べて売る、は同じでもその背後の購買、配送、商品追加といった販売を支えるシステムが日本のように機能していない。チェンライでは買おうと思ったらその時にすぐ買わないと次の機会はない、と言われるが全くその通りだ。
チェンライにいるとまあここはタイだから、とあきらめるのであるが、整然と動く日本のシステムには改めて感動する。
■価格と満足度
外国人観光客が「日本は何でも安い」と喜んでいる動画をよく見る。ラーメンはニューヨークやロンドンでは日本円にして3千円というから日高屋の味噌ラーメンが600円なら確かにそうだなと思う。チェンライで家にマッサージに来てくれるおばさんの娘さんはバンコクで働いている。彼女が2泊3日の大阪観光に行った。彼女曰く「服が200Bくらい、安くてびっくり、いっぱい買った」とか。自分の場合、バンコク―東京往復の航空券代は4万円ほどだったが、バンコク―大阪の弾丸グループ旅行は宿泊費を入れてももっと安いのだろう。またバンコクから日本の小都市に飛ぶなら更に安いのではないか。
でも安い航空券は早朝便であるとか経由地での足止め時間が長いなどの欠点がある。食べ物でも例えば牛丼はB級グルメとして優れているとは思うが、やはり高級寿司店、3つ星レストラン等に行けば値段は張るもののかなりの味が楽しめる。美味しさ、店の雰囲気は支払う金額に見合ったものになる。それだけ日本は選択肢が豊富ということだ。財布を心配しながら今日は精一杯贅沢しよう、美味しいものを食べに行こうと思えるのは帰国したからと言える。
■料理の美味しさ÷代金=満足度
帰国以来、チェンライではお目にかかれない食材、料理を楽しんでいる。特に魚は海から800キロ離れたチェンライではノルウェー産の小鯖、鮭を除けば海の魚は何もない。
ライフやオオゼキなどのスーパーの鮮魚や魚の加工食品も美味しいと思ったが、今回一番感動したのは三浦半島、横須賀市にある浄楽寺の朝市で購入した鯵である。
逗子市にある友人宅に世話になった。逗子市は鎌倉市、葉山町に挟まれた人口5万5千人の観光都市である。古くは東郷平八郎、伊藤博文の広大な屋敷があったが孫、曾孫の世代になってお屋敷はマンションや住宅、駐車場になっている。
逗子からバスで海岸沿いに30分、国重文の運慶仏5体が安置されている浄楽寺のバス停に到着する。今回の目的は1200年の歴史を持つお寺ではなく、バス停近くで週末だけ開かれる朝市である。地元の漁師さんが獲れたての魚介類を販売する。新鮮であるばかりでなく驚く程安い。鯵が20匹で300円、イナダは1匹1200円など。黄金鯵と言われる20センチ越えの鯵を10匹ほど買った。友人宅に戻って3枚に下ろし、刺身や酢漬けにした。これがなんと旨いこと、スルスルと喉を通っていく。三枚に下ろした残りの骨は半分に叩き切ってアラ汁にする。これも美味しい。
東京のスーパーの魚など足元にも及ばないほどの新鮮さ、また酢〆の鯵は我ながら感心する。炊き立てのご飯をお替りした。それなりの代価を支払えばそれなりのレベルの料理が食べられる。でもこの価格でこんなに美味しい鯵が口にできるとは。
「料理の美味しさ÷代金=満足度」という我が公式に照らせば浄楽寺の鯵は代金が極小範囲であったので満足度は最高レベルだったと言える。