タイで盛り上がるEV需要
■テスラは苦戦
チェンライのショッピングモール、センタンの駐車場には電気自動車(EV)専用コーナーがある。買い物をしている間に充電ができるようだ。充電中の車を見たのは1回しかないが、市内のウィアンインホテルにも「EVの充電できます」のボードが出てきたところを見ると、北タイにもEV時代が到来するのかもしれない。
実はタイのEV市場はかつてないほど盛り上がりを見せている。タイの自動車専門メディア「オートライフ・タイランド」によると、21年に年1935台だったEV登録台数は、22年には同9729台に。そして23年は1〜7月だけで3万6860台に急伸した。昨年12月にテスラがタイ市場に参入したが、EV市場の8割はBYDや上海汽車集団など中国勢で占められ、テスラは苦戦している。理由は中国勢に比べ価格が高いことだ。中国車の実質価格は日本円で500万円弱であるがテスラはモデルにもよるが700万円から1000万円となっている。
また、「テスラは欠陥車」といったユーチューブが拡散されたせいという説もある。テスラの自動運転はよく知られている。車の最先端を行くAI 機能で人が運転しなくとも安全走行ができるというものだ。ところがこの機能がタイでは災いする。タイではピックアップの荷台に人が乗ることが許されている。北タイの山間部ではトラックの荷台に小中学生が鉛筆立ての鉛筆のようにぎっしり立って登下校する様子が見られる。顔にタナカという白粉を塗ったミャンマー人労働者を荷台に乗せているトラックもよく見かける。また、こちらの庶民の足、ソンテウには車内は勿論、ステップの上に立っている人もいる。
実はテスラのAIはトラックやソンテウに乗っている人を歩行者と誤認して、ストップしてしまうのだ。人を満載したソンテウの後ろを走ったりしたら、とんでもないことになる。米国や日本では車の前に生身の人間がいる、は歩行者しかいないと思うが、タイのソンテウやトラックはテスラの想定外だったと見える。
■強気の中国EVメーカー
ガソリン車も合わせたタイの新車販売台数は、22年時点で80万台余り。23年の見通しも約90万台で、いずれも新型コロナウイルス感染拡大前の19年実績である約101万台を下回っている。
6600万人余りの人口に対して、年間の新車販売台数は80万〜100万台。人口1億2600万人の日本の新車市場が登録車と軽自動車の合計で22 年度に約438万台だったのと比べると、EVを含めた車の市場はこれから伸びるというべきか、購買層が限られるから市場は横ばいとみるかと見方は分かれている。しかしながら中国勢は強気でニュースクリップ10月26日付に以下の記事があった。
中国・長安汽車、タイ東部でEV工場用地取得
中国の大手自動車メーカー、長安汽車は26日、タイ東部ラヨン県のWHAイースタンシーボード工業団地4の土地40ヘクタールの購入契約を結んだ。
右ハンドル車を製造する工場を建設し、2025年に生産を開始する計画。年産能力は電気自動車(EV)5万8000台、プラグインハイブリッド車(PHEV)3万6500台で、投資額88億6000万バーツを見込む。製造した車両はタイを含む東南アジア諸国連合、オーストラリア、ニュージーランド、英国などに供給する。(引用終わり)
ホンダが2016年5月にプラチンブリ県・ロジャーナ工業団地に完成させた新四輪車工場の総面積が21.4ヘクタールというから長安汽車はホンダの2倍近い用地を確保したことになる。中国勢の攻勢は実を結ぶだろうか。
■タイ政府の促進策
2021年のタイ国内の自動車生産台数は169万台であり、世界第10位、またASEAN域内ではトップだ。世界のEV化促進の流れに合わせ、タイでも国内の自動車生産に占めるゼロエミッション車(ZEV)の割合を2030年末までに30%にする目標を立てている。同目標達成のため、政府はガソリン車を中心とした現在の自動車市場/サプライチェーンから、EVへの段階的な移行を図っている。
タイで生産された自動車の半数は輸出されている。輸出先には新興国も多い。これら新興国では電力需給に不安があり、今後も一定のガソリン車需要が継続すると思われる。輸出先の幅広い需要に応えるため、タイは地域のEV製造ハブを目指しつつ、一部は、ガソリン車の生産も維持しようとしている。
タイには地場のバッテリ製造会社、EV製造会社もあるが、トヨタが全個体電池搭載のEVを市場投入すればタイは勿論、世界のEV市場の大変革が起こる。日本車排斥を狙った欧米、中国はどういった反日対策をぶつけてくるか、また変わり身の早いタイはどう動くか注目される。