チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

香りの思い出

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靖国神社の梅、昨年12月撮影

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大宰府天満宮

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太宰府天満宮の梅

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映画「パリの調香師 しあわせの香りを探して」の一場面 

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パリの香水博物館

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シャネルの5番、15㎖、本体価格24,000円

 

香りの思い出

■匂い起こせよ
靖国神社の裏庭で1、2つ花開いた紅梅を見た。昨年12月のことだ。今は近所でも満開だ。梅は桜と違い香りがする。花を見なくても近くで梅の存在を感じる。東風(こち)吹かば匂い起こせよ梅の花、だ。この和歌を聞くと反射的に、東風吹かば匂い起こせよレバニラ炒め、というパロディを思い出す。マンガで覚えたのだろうか。梅の花ならば「匂う」でいいがレバニラ炒めなら「臭う」のほうが適切かもしれない。ネット翻訳でみると英語ではsmell goodとsmell badの訳が出てくるだけで何とも味気ない。日本語では他にも「香る」、「薫る」も使われる。
朝の食卓に漂う香り、旅行けば駿河の道に茶の香りと、風薫る初夏、古代の文化薫る明日香村、この違いは日本人ならわかる。香り、薫り、あるいは匂いを文例に入れ替えてみると確かに違和感がある。
香道では嗅ぐことを「聞く」といい、「聞香」、「組香」という繊細な言葉もある。英語なら嗅ぐも聞くも「smell」「で済ませるところだろう。

■香水嫌い
有楽町シネマで「パリの調香師 しあわせの香りを探して」というフランス映画を観た。原題(Les parfums)の直訳は「香水」。アルパチーノ主演の「狼たちの午後」は「Dog Day」(盛夏)の誤訳だ。誤訳ではないにしても「調香師 しあわせ・・・・」はどうかと思った。映画は中年女性とハイヤー運転手の、仏映画には珍しく、全く色恋無しの佳作であった。

天才調香師のアンヌは、世界の名だたるトップブランドで数多くの香水を手掛けてきた。だが4年前、彼女はスランプと多忙がきっかけで嗅覚障害を患ってしまう。地位と名声を失いひっそりと暮らすアンヌだったが、ある日運転手として雇われたギヨームと出会い……。スランプにより嗅覚を失った女性調香師の苦悩と、再起をかけた挑戦を描く。
仏映画はヒロインが死ぬという救いのない結末が多いが、これはハッピーエンドに終わる。この映画で香水を創り出す工程を観た。いくつもの香料を混ぜ合わせ、匂いを確かめてはその組成をノートに記していく。かなり辛気臭い仕事である。

亡き母が鳩居堂の匂い袋に凝っていたことがあり、スーツの内ポケットに匂い袋を入れていたことがある。頂き物のオーデコロンを使っていたこともあるが、基本的に香水の類には興味がない。ないどころかエレベータで香水のキツい女性と乗り合わせるとイラつくことさえある。一流の寿司店では香水の女性お断りの店もあるし、香水の香りに惹かれて女性を好きになる人は少ないのではなかろうか。

■香水でない匂い
犬を見るとお互いクンクンと匂いを嗅ぎあっている。クオーラでは、男性、女性を問わず、相手の体臭に惹かれて交際が始まったという告白が出てくる。別れるときには好きだった体臭が消えているという。舟木一夫の高校3年生に「僕らフォークダンスの手を取れば、甘くにおうよ、黒髪が」とある。これは「臭う」ではなく、間違いなく「匂う」だ。

米国では登録した人に1週間ほどTシャツを着続けてもらう。それを送ってもらい、1,2センチの小片に切って、希望者に送付する。その小片をクンクンと嗅いで、この匂い、ステキ、となればマッチング成立というお見合い業がある。本当かなと思ったがかなりの実績があるらしい。人間も動物も同じいうことか。

香水を創るだけが調香師の仕事ではない。映画でもバッグ用のなめし皮の臭いや工場から出る排煙の悪臭を解決するという場面があった。
介護ロングステイの実際を知りたいという女性がチェンライの我が家に訪ねてきたことがある。彼女はこの家には介護家庭特有の臭いが全くありませんね、と言った。人間はオシメに始まってオシメに終わる、これがほんとのオシメーだ、これは漫談だが、介護は排泄物との闘いである。女中さんのお陰で母は亡くなるまで清潔に過ごしたが、一般家庭での介護ではそうもいきかねる。消臭剤の調合や花の香り演出も調香師の仕事である。香水、化粧品のみならず、食品にも調香師は活躍している。意外と日本は調香先進国とのこと。

ブリキ玩具や折箱の博物館があるのだから、香水博物館も、と思って調べてみたらあるある。パリの香水博物館は観光名所となっている。日本はVR技術に優れているのだから、マリリン・モンローがセクシーに迫ってくるVRを視聴するとシャネルの5番が香ってくる、そんな香水美術館がないものか。香水でなくても日光、雨上がりの杉林、お祭りの境内、その情景を見ながら森林や焼きそばの匂いが楽しめたら、と思う。

鰻をパタパタと焼く情景と共に匂いが嗅げたら・・・、匂いだけでも金を払う用意はある。