湖の向こうに見える近代的建築が故宮南院
翆玉白菜
「藍地描金粉彩游魚文回転瓶、内瓶に染め付けられた金魚が動くように見える。
肉型石、三層の石だがどう見ても豚の角煮、清国皇后の寝室に飾られていたとか。
毛公鼎(もうこうてい)、西周晩期の青銅器、中に500文字が刻まれている。
彫象牙透花雲龍紋套球、120年、3代にわたって彫り続けらた。中の球体はすべて動かせるとか。
故宮博物院と南院
■半年で3回の渡台
台湾には仕事で何度も行っているが、ここ30年程訪れていなかった。それが昨年の10月末に1週間ほど、そして今年の2月末に数日、そして武漢肺炎の大騒ぎ直前の3月5日に1日と半年の間に3回訪台している。
台湾旅行といえばグルメであろう。人間三大欲望のうち、食欲しか残されていない老残の身である。だが山海の珍味を前にしてもそれほど沢山食べることができなくなった。若いころは接待等で中華料理となると、上司が残っては勿体ないから、中西君食べなさい、と声をかけてくれたものだ。仕事はともかく、宴会ではいつも上司の期待に応えてなんでも平らげた。往時渺茫、骨も縮んだが胃袋は半分に委縮しているのではないか。残念である。
動物は食べることが生きることである。年老いて走れない、噛めない、視力の衰えは死を意味する。人間だって石器時代は狩りができない老人は集団から取り残されたのではないか。
でも自分は令和の御代に生きる現代人、タイで誂えた差し歯で噛めるし、眼鏡をかければ本も読める。自分の台湾旅行は、グルメもさることながら、名所旧跡の見物、そして故宮の美術品鑑賞といった眼福を味わう旅であった。
昨年10月の台湾は一人旅だった。烏山頭ダムの八田興一技師、金門島、古寧頭戦役を指揮した根本中将、台湾教育の礎となった芝山学堂の六氏先生たち所縁の地を訪ね、ブログを10本以上書いた。この時期、中国は台湾政府への嫌がらせとして個人客の台湾観光を禁じていた。それでも団体旅行はOKだったから、あちこちでダサい格好の中国人観光団と出会ったものだ。武漢肺炎の発生以前だったから、台北の故宮博物院には入場制限をするほど多くの観光客が押し寄せていた。故宮博物院5大宝物である翆玉白菜、大きな1本の象牙から掘り出したという21層の球体(彫象牙透花雲龍紋套球)の周りは大混雑、人の頭越しに逸品を垣間見るだけ。写真撮影が許されているが、とても現物に近づける状態ではなかった。
2月末に友人のIさんと兄の3人で台湾を再訪した。台湾は日本より1月も早く、2月6日に中国本土、香港、マカオからの入境を全面禁止していた。すでに台北は準戦時体制、街行く人はほぼ全員マスク、ホテルやレストランでは体温測定、手の消毒は普通になっていた。観光客は激減しており、宿泊費は通常の半額以下、我々3人にとってはどこも空いていてラッキーだったといえる。故宮博物院も閑散としていて時折、邦人観光客の団体を見かける程度。人目を気にすることなく気に入った青銅器、鉄器、染付、翡翠の前でカメラを構え、ゆっくりとシャッターを切った。館内は暗いので写真がぶれやすい。
台北でIさんと別れ、兄と台鉄で嘉義へ向かった。兄が故宮博物院の別館である故宮南院に行こうと言ったからだ。この2月の旅は1本だけアップしている。2月末にチェンライに戻り、3月初めに台北経由で日本に向かった。チェンライに戻ってからゆっくり続きを書こうと思っていた。旅先でもらったパンフレットや入場券、写真、それからネット情報や本を参照しながら書くのが自分の旅日記のスタイルだ。チケット1枚でもじっと眺めていれば、書くべきフレーズが浮かんでくる(こともある)。今、この身は東京、資料はチェンライ、でもこのままでは故宮南院に行ったことも忘れてしまう。
さて、故宮南院の正式名称は「國立故宮博物院南部院區・亞洲藝術文化博物館」である。台湾北部と南部との文化の差を縮めることをめざし、計画から約14年の歳月をかけて2015年に完成した。この故宮南院、敷地全体の大きさは70ヘクタール(東京ドーム約15個分)と広大。博物館以外の場所は庭園と人工池で構成されている。嘉義駅からタクシーで乗り付けたのであるが、入場口から遠くに見える近代的な建物へ美術館巡回バスで案内された。
館内は3階建て、天井は高く、ゆったりとしている。分館だから大した展示物はないのではと思っていたが、台北に劣らず素晴らしい作品が並んでいた。台北では鑑賞できなかった翆玉白菜がここで展示されていた。長い時間、たぶん10分以上、翆玉白菜を独り占めすることができ大満足だった。
一般より50元高い350元の入場券は、故宮博物院と南院の2館共通券となっており、3カ月以内であれば両館に入場できる。午前中に台北の故宮を訪れて、午後に高鐵で嘉義に移動し、南院の美術品を鑑賞するという弾丸ツアーもあるようだ。
グルメに飽きた人は是非、この美術品鑑賞ツアーを検討して頂きたい。