介護ロングステイ9年5カ月
■過去ブログを読む
このところ昔書いた珈琲関連の原稿を再録している。2009年の終わり頃の話だ。あの頃は母も元気で一緒に珈琲花園へよく行った。多少、とんちんかんではあるが珈琲店の常連さんやMさんと談笑していた。こちらに来て一時的に回復した兆しがあって、家の中を歩き回ってブアさんたちを困らせていた。
当初、月1回通院していたシルブリン病院の医師にはワイをして「先生、ありがとうございます」などと言っていた。
1年3ヶ月目のブログには、自分に「先生、先生」と呼びかけるので、「先生をしていたことはあるけど、お医者さんじゃないよ、息子の英樹だよ」と言うと、目を大きく見開いて「ああ、やっぱり」などと驚いてくれる。それなのにしばらくすると、「あんたは私のお父さんかい?」と言う。息子はお父さん、ブアさんはお母さんだ、などと書いてある。過去のブログを遡って読めるけれど、多少の作業が必要なので煩わしい。
しかし、2年前に偶然に知り合ったHさんが、ご自分のホームページに介護ロングステイの部分を中心に転載して下さっている。これで月1回の介護記事を通しで読むことができる。書いた本人としてもこのHPから古いブログを読み返してみて感慨にふけることがある。いつもHさんのご好意、ご尽力には感謝している。このHP にはタイ関連の有益な記事が満載されているので、自分の記事とは別に是非、ご参照頂きたいと思う。
(HP名は「老旅人の備忘録」http://an-old-traveler.world.coocan.jp/ 、このページの「タイで暮らす」のタイトルをクリック、目次の20番目に介護の過去ブログがまとめられています)
■ミルクムース
珈琲花園には今でも行っている。珈琲を飲み、挽いてもらった豆、そしてミルクムースを2つ購入する。ムースは母の好物だ。
数年前からお粥とバナナ主体の単調な食事である。それで母にドリアンとかカステラなどをこっそり食べさせることがあるがブアさんたちが嫌がる。食べさせたことはすぐ露見する。母の体調が変わるからという。でも珈琲花園のムースだけは必ず許可が下りる。体調に影響がない、というよりも、母がムースをこよなく喜んでいることが表情と口元を見るだけでわかるからと思う。ムースを買ってくると、冷蔵庫に保管する前にブアさんが「新しいほうが美味しいですから」と1つ、すぐに母に食べさせている。
話をしたり、介助があれば歩けた頃は、ドリアンやマンゴー、マンゴスチンなど南国の果物を喜んで食べていた。ドリアンはお気に入りだった。今はブアさんの監視下にあるから、許しを得て一匙食べさせるほど。ドリアンは年寄に良くないとブアさんは言うが本当だろうか。
これが果物の王様、ドリアンだよ、これが果物の女王と言われるマンゴスチンだよ、と言いながら食べてもらったものだ。その度に母は目を丸くして驚いてくれた。母の顔の表情がほとんど消えてから久しい。寂しいものだ。
■抗認知症薬は保険対象外
発症を遅らせる薬はあるが、認知症に効く薬はないと書いた。効かないんだから飲まなくてもいい、そう考えたのは自分だけではないようだ。
ネットで「アルツハイマー病治療薬・フランスで医療保険から外れる 変わる認知症治療の潮流とは」という記事があった。
6月1日、フランス厚生省(社会問題・健康省)は「現在、アルツハイマー病の治療のために使われている薬を、8月1日より医療保険のカバーから外す」とした。フランスには2005年に設立されたHAS(高等保健機構)という公的な組織があり、医療保険でカバーする薬や医療技術などの臨床効果を評価している。
2016年10月、HASはアルツハイマー病治療薬の臨床的な有用性に関する検討結果を公表し、 世界中でこれまでに発表された研究を調べた結果、薬を使うことで施設への入所を遅らせたり、病気が重症化するのを抑制できたりなどの「良い影響」を示す証拠は十分ではないと指摘。 その一方で、消化器系や循環器系などへの有害事象は無視できないとして、これらの薬を「医療保険でカバーするのは適切ではない」と勧告した。 これで厚生省は抗認知症薬を医療保険から外す決定を下した。
日本で抗認知症薬に支出される金額は1500億円を越えるという。大半は85歳以上が対象、ということはそれほど効果はないと思われる。母の場合、抗認知症薬に付随して胃腸薬など8種類の薬を服用していた。薬をやめれば本人はもちろん介護者の負担は減る。
フランスのように薬ではなく認知症患者を取り巻く環境をよくする方向、つまり薬よりケアへ予算が配分されるようになるなら、我が経験に照らしてそのほうが望ましいと言える。