介護ロングステイ4年7カ月
■女中さんの楽しみ
先任女中のブアさんはずっと住み込みで働いている。通いのニイさんの勤務時間は朝7時半から夕方18時半まで、日曜が公休日。ここ1年、このコンビが続いている。二人とも明るい性格なので、介護家庭とはいえ活気がある。
女中さんたちの楽しみは宝くじを買うこと。くじを見せびらかして、これで400万B当たったら、100万はタンブン、100万で家を買って、100万は貯金、残りの100万で女中さんを雇ってママさんの面倒を一緒に見る、などと言っている。
ニイさんたちが買うのはヤミ宝くじ。公営宝くじの20倍から30倍の規模があるという。お上の取締りは特にないようだ。くじは下2ケタ、3ケタの数字を当てる仕組み。自分の知る限り、ニイさんもブアさんも2回ずつ当たっている。大体100Bの投資で4000B当たる。ブアさんは2万B当てたことがある。
日本の宝くじの還元率は46%、つまり1000円投資すると当選金として還ってくるのは460円である。その点、タイの宝くじの還元率は70%というからかなり良心的だ。
日本であれ、タイであれ、庶民が努力せずに大金をつかむ方法は宝くじである。国道沿いはもちろん、市内の至る所で宝くじを売っているし、銀行、レストラン、葬儀会場、結婚式場、新築祝いなど人の集まるところには必ず、宝くじ売りのおばさんがやってくる。
街で交通事故があると、車を停めて事故車のナンバーを控えるタイ人は少なくない。事故車のナンバーは当たると信じられている。
先ごろ、友人が事故死した。帰宅したら女中さんがまず尋ねたのは友人の車のナンバーだった。全く何を考えているのか。
■認知症の薬
日本人に生まれたのは前世でブン(徳)を積んだからに相違ない。そういった徳の高い人に宝くじを選んでもらうと当たるという。自分もニイさんに頼まれて買って来た宝くじが当たり、感謝されたことがある。
ママさんも前世でブンを十分に積んでいるので、長生きをしている、と思われているようだ。そうかもしれない。
兄が2カ月ぶりに病院に行き、母の薬を貰って来た。ここ1年、母は病院に行っていないのだが、薬だけは出してくれる。
今のタヌー医師は脳専門医であるが、彼の処方する薬に変わってから譫妄(せんもう)が激しくなったような気がする。譫妄とは意識レベルが低下して、不安やイライラ、不眠などを伴う幻覚や妄想が起きたり、興奮状態になったりすること。認知症などで脳の機能が低下している時に起こりやすい。
認知症の薬としてはアリセプト、イクセロン、レミニールの3つが知られている。いずれも脳内物質の代謝に作用するため、量の処方が難しい。
母は起きている時、大声をあげていることが多いのだが、薬のせいかもしれない。イクセロンは幻覚、激越、せん妄、錯乱のほか、下痢の副作用がある。お腹の調子が悪い日が2,3日続くと母の体力が落ち、肩で息をする。女中さんが効能書きを熟読し、母の体調を見ながらイクセロンのを使用を調節していた。
イクセロンは副作用があって、というとタヌー医師は、新薬レミニールに代えた。この薬もイクセロンと同系統の薬だ。効能書きには「認知症の進行度が中程度までの場合、20~30%位の有効率が期待されます。但し、対症療法薬なので、アルツハイマー病そのものの進行を遅延させる訳ではありません」とある。今の母に効いているかどうかわからない。そういったら薬量を2倍にされて、母は意識を失った。その意味では効き目があった。
「ソマジナ」という水薬も飲んでいる。これは別名シチコリンといって意識障害、記憶障害に効くという。日本の病院では1000mgを静脈注射している。米国では頭をよくするサプリとして売られているが、経口では気休めにしかならないらしい。
■副作用の心配
レミニールもソマジナも胃腸に負担を与える。そこで「ミラシッド」という胃薬が処方されている。プロトンポンプ阻害剤という胃酸の分泌を強力に抑える薬だ。二日酔い、食べ過ぎの時、服用したが効果は抜群だった。
タイでは市販薬として14錠入り1箱が100B以下で買える。しかし日本では市販されていないので並行輸入品が2千円以上で売られているとのこと。
このミラシッドの副作用は少ないとされているが、効能書きには稀に譫妄、錯乱、興奮を引き起こすとなっている。
譫妄を抑える薬で消化器がおかしくなり、消化器を守る薬に譫妄の副作用がある。
認知症の改善効果が期待できないのであれば、薬の服用を全部やめてしまえばいいのではないか思う。しかし、大声が出ているうちは元気である、ともいえるわけで、このあたりの判断は難しい。
写真は病院受付と、二人の女中さん。