チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

タンブン文化 2

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タンブン文化(その2)

タイでは物質的基盤なしに権力を維持するために、温情的人間関係に頼る以外になかった。その温情的人間関係の補強材として仏教とバラモン教が利用された。

タイは仏教の国というが、バラモン教の影響を強く受けている。タイのお寺にいくと仏陀のほかに三つ頭の象だの猿だのヘビだの、あるいは見たこともない怪しげな鳥の像を多く見かける。これらはバラモン教に由来する神像だ。バラモン教は古代ヒンドゥー教でクメールからタイに伝わったといわれる。バラモン教の特徴は儀式を重んじることであり、儀式を執り行えば神様は人間ののぞみを叶えてやらなければならないとされている。バラモン教の神様にはいろいろあって家庭のことだけ、地域のことをつかさどる、雨を降らしてくれるなど、それぞれ守備範囲が違っている。でも供物を捧げて儀式を執り行えば必ずご利益があるという判りやすい教えはタイ人には受け入れやすかったと思う。従来の仏教はきっちり存続させ、儀式的な要素だけをバラモン教から取り入れた。日本の神仏習合を思わせるような知恵である。

バラモン教の儀式には、神様の世界と人間界を仲介する特殊な人がいて、その頂点には国王がいる。タイ王室の国章にはバラモン教に由来するガルーダという神鳥が使われ、その国章はタイ紙幣の裏表に印刷されている。ガルーダは、ヴィシュヌ神バラモン教の主神)の乗り物で、鷲の頭部・嘴・翼・爪を持ち、翼は赤く、全身は黄金色に輝く巨大な鳥として描かれる。

タイ国王は、ヴィシュヌ神仏陀=ラーマ王の生まれ変わりとされているので、ガルーダはタイ王室の守り神となっている。インドネシアでは仏教伝来と共に、国営航空会社「ガルーダ・インドネシア」のエンブレムにも採用されている。大乗仏教に帰依したガルーダは、「天竜八部衆迦楼羅(かるら)神」として仏法守護神となった。日本の密教では、梵天大自在天の化身、あるいは、文殊菩醍の化身といわれ、風雨を止めるための修法である伽楼羅法の本尊とされている。さらに、ガルーダは、日本の民間信仰に取り入れられて「カラス天狗」となった。カラス天狗がプミポン国王をお守りしていると思うと妙な気がするが。

話が横道にそれた。タイの権力者は温情主義をうまく作り出すために仏教の慈悲心を、神の世界との中継ぎにバラモン教を持ってきた。バラモン教は神王思想により、王を神に仕立てている。また、仏教とバラモン教を使って、社会の序列は積徳(タンブン)の量と神への近さで決まっていると一般の人たちに思い込ませている。下の人に、上の人は徳を積んだ人だから、すがって生きなさいと教え、上の人には、下の人に慈悲を垂れなさいと教えている。また上の人は神なる国王から眼に見えない威力を付与されている人達であるので、服従しないとバチが当たると教えている。
このように上の人は下に慈悲を垂れ、下の人は上の人に服従することが、保護ー被保護関係を支える道徳、社会通念となって、今日まで受け継がれてきている。

タイの選挙では(徳を積んだ)立候補者は金をバラまく。貰った人は必ずその恩に報いて投票する。金をもらって、その人に投票しないのはハーブ(悪行)になると考えているのだ。配った金と票数は村ごとに1票の狂いもなく一致するという。伝統的文化の重さを感じる話である。

上の人は徳を積んだ人であるから、下の人に慈悲を垂れなさい、下の人は徳がないから徳を積んだ上の人にすがって生きなさいという教えは、社会的不平等を平等化する見事な論理となっている。下の人が上に歯向かうことがないのだから社会的秩序は安定する。貧しければ貧しいほど、前世のタンブンが少なかったせいだとあきらめて、来世を願ってわずかな蓄えをタンブンに差し出し、上の人にすがって暮らす。益々不平等は拡大し、貧困は激化するのだが、そうなればなるほど上の人への依存が強まり社会は安定していく・・・

この論理は何世紀にもわたって造られてきたもので、なかなか崩れない。これがタイの組織原理、いうなれば文化になっている。制度はみなこれで動いているといっても過言ではないだろう。
(続く)