チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

Tさんの法事から

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Tさんの法事から

■法事の中の生活
タイ仏教では死後100ヵ日で法事は終わり、と書いたが、考えてみると正確ではない。葬儀と100ヵ日はお坊さんを招き、近所、親戚の人が集う日本でいうところの仏教儀式、法事に間違いはない。でもお寺や坊さんへの関り合いを見るとタイでは毎日が法事といってもいい。月4回のワンプラ(仏さまの日)以外に、お寺の催し物があるし、日にちを問わず、時間があればご供物を持ってお寺に行く。封筒に大昔に亡くなった人の名前を書き、坊さんに読経を頼む。自分も40年も前に亡くなった父の名前を何度か封筒に書かされた。

最近亡くなった大学や会社の先輩の名前を封筒に書いたこともある。一応、タイ語で書いてあるので、名前を読み上げて菩提を弔ってくれる。「効き目」があるかどうかわからないが、あの世で先輩が吃驚したことだろう。お布施を差し上げ、故人のための読経を僧侶にお願いすることが法事ならこれも立派な法事だ。

日本の旧家の長男は3回忌、7回忌、13回忌など節目の法事を執行しなければならず、親戚の誰を呼ぼうとか、早めにお寺さんや料理を予約しなければ、と思い悩むのであるが、タイでは年間通して仏事が決まっていて、淡々とこなしていく。女中さんを見ていると生活の中に法事があるのではなく、法事の中に一部、生活があるという感じだ。あー、オークパンサーだ、タンブンに金がかかるなあなどと露ほども思わず、タンブンが幸せの源、当たり前のことと思っているようだ。

■国と仏教の関係
タイは国民の95%が仏教徒であり、国王は仏教徒でなければいけないと憲法に定められている。信教の自由は保障されているのだが、タイの仏教僧団(サンガ)はタイの文部省宗教局の傘下にある。サンガ統制法という法律が1902年に制定され、寺院の建立規制や出家者の登録義務を定めている。僧侶が持つべき教法や知識もまた標準化されている。『公教要理』という基本的な教理の国定教科書があって、それに基づく国家試験も1911年に制定された。1938年には出家歴5年未満の新参比丘は試験を法的に義務づけられる。今日のタイ社会でみる僧侶は、国家がその資格を与えている官許僧なのである。
つまり、タイの僧侶はタイの官僚組織の一員で、王様が「あの大僧正はクビ」というとサンガはそれを受け入れなければならない。(勅命による法王の解任権)
国の締め付けで宗教の自由が侵されるではないか、と心配する向きもあるかと思うが、国の庇護を受けているおかげで、タイ仏教僧団は僧俗共栄、近隣諸国の宗教界にも影響力を持つ勢力となっている。1960年代には僧侶が山岳少数民族の地域開発促進プログラムを実践することも行われた。
国家に従属し、国益に利する組織という側面が強調され、共産主義者は人ではないから殺傷しても仏教大罪にはふれない、と公言する高僧も現れたという。

■土着宗教
制度的に見れば国と僧団の関係は一体化しているが、自分の周りにいる坊さんはとてもお役人には見えない。
上座仏教は出家・持戒主義を重んじる。五戒の中でも「不邪淫戒」は厳しい。タイ女性は坊さんに決して触れてはならず、もし間違って肩がぶつかりでもしたら大騒ぎとなる。
でも最近、有名な坊さんが、うら若き女性と同衾している写真をすっぱ抜かれ、大騒ぎになった。外車を3台持ち、自家用ジェット機で欧州に遊山にも行っていたという。坊さんの強姦、殺人、強盗事件は時折報道される。でも坊さんだって人間だもの、とタイ人はあまり動じない。それよりも、彼らが僧侶に求めるのは「効き目」である。月2回、宝くじが販売されるのだが、この当たり番号を予言する坊さんは人気がある。
チェンライにもあそこのお寺で拝むと宝くじが当たるという話は聞く。宝くじに当たるとお礼にゆで卵を奉納する。

チェンライあたりの仏教にはクメールのヒンドゥー教、土着の精霊信仰が混在している。ピー(幽霊)を鎮めるのは僧侶の重要な仕事だ。

Tさんは事故死だったから、成仏しにくいと思われたのだろう。事故現場にはお社(サンプラプーム)が建てられ、川からお社まで梯子が掛けられた。土人形も飾られたが、これは依り代だろう。迷った霊がのり移るよう生きたカエルも放流された。カエルが川岸から梯子を伝って、お社に登ってきたという話は聞かなかったが、もし本当にそういうことが起こったら、微笑ましい気がする。

宗教は僧侶の属人的要素や慣習的要素が大きい。制度や教義はそれとして、自分の経験できる範囲でタイ仏教をしっかり観察していきたいと思う。

タイ現代仏教に関心のある方へ、参考になります。
「現代タイ国における仏教の諸相 ―制度と実践の狭間で―」 (林行夫)
http://home.att.ne.jp/blue/houmon/souryo/nation_tai.htm


写真はソードタイのカーカム寺です。