チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

タンブン文化 3

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タンブン文化(その3)

タイを含む東南アジア、ミャンマーカンボジアラオス、マレーシア、インドネシア諸国では土地が富力の源泉にならなかった。それは人口が少なかったために、土地を基盤として、封建制社会の社会が形成できなかったということである。これらの諸国ではかつて王国を造り、維持するに当たって、支配層が苦労したのは、自己の支配を如何に正当化するかということであった。土地という絶対的生産手段で支配できないとすれば、精神的基盤で人間を支配する方式を採らざるを得ない。その結果として、今の言葉でいうイデオロギーが非常に重要視される社会になった。そのイデオロギー形成に使われたのが宗教だった。宗教を使いながら自らの支配を正当化し、社会秩序をつくっていったのは東南アジアに成立した王国の共通した姿であったように思う。

タイに仏教がはいってきたのはそれ程古いことではない。上座部仏教が最大の勢力を持つ宗教として成立するのはスコタイ朝三代目ラームカムヘーン王(在位・1279年? - 1300年?)の時代、13世紀である。
上座部仏教における頂点はもちろん仏陀、悟りを得て涅槃に入った人である。ところが、この仏陀は誰でも厳しい修行さえ積めば到達できるのだ。どんな人間にもその機会は平等に与えられているのは、絶対王制を築こうと思っているものにとって、非常にまずい。国王は絶対であり、すべての頂点に立っていなければならないからで、平等思想が基本にあると権力による統治に説得力がなくなってしまう。しかも、仏陀とは世俗を捨て、すべての欲望を断ち切った人を指している。豪勢に暮らしたり、権力をふるったり、他国と戦争したりする人では絶対にない。

こういった矛盾を解決したのが、新たに導入されたバラモン教だ。バラモン教国であったクメール帝国の歴代王は、自らを神の化身と称し、絶対権力を持って国家を統一した。神がこの地に再臨しているのだから、人々はひれ伏すのみ。王は天上界を支配する神が転身して地上に姿を現したものである。王は人間の姿をした神である。そう宣言することによって王は大衆の尊敬を得て、権力の絶対性を高めていった。

バラモン教義を採用したアユタヤ王朝(1350年-1767年)やトンブリー王朝(1767年-1782年)の国王は、国土を統治する権力者として、また、神の化身として、“ソムデット・プラプッタジャオユーフア”(神でもある国王陛下)と呼ばれていた。バラモン教では、ヴィシュヌ神が地上に現れる時の仮の姿が仏陀ということになっている。何百年にもわたって王様は神様(仏様)という教えが生きている。だからチャクリー朝プミポン現国王は最高のタンブンを積んだ人という考えが一般にはある。タイの寺院に行くと寺院の中にプミポン国王の写真が必ずある。また、母の通院するシルブリン病院にはポミポン国王と高僧が向かい合った写真が飾ってあり、女中などその写真に手を合わせている。王様イコール神様、仏様の世界だ。

写真はチェンライのカオソーイ(ココナツカレーそば)屋さんに飾ってあった絵である。水の中で苦しむ人々に神鳥ガルーダに乗ったプミポン国王が空から手を差し伸べている。もう一つの絵は同じく苦界の海でもだえ苦しむ罪人と空で罪人の救済を祈るプミポン国王の図である。国王には光背があって、まさしく仏陀をイメージさせる。面白いことに地獄で苦しむ罪人はすべて男性で女性は描かれていない。

タイでは政治的混乱が起こると、王様が出てくる。王様の前で両者がひれ伏して王様の説教を聞いているというテレビ映像を覚えている人も多いだろう。王様が仲良くやれ、とか何とか言うと流血の惨事が起こった政治闘争も落ち着くところに落ち着いてしまう。あれはタイの社会通念、道徳が依然として強いことを証明していると思う。

プミポン国王は最近、ご健康が優れないため国内巡幸をされていないが、10数年前、活発に地方視察をされている頃には、沿道に庶民が詰め掛け、老婆がしわくちゃの20バーツ札を捧げ持って王様のおいでをお待ちしていた。王様は生活にお困りだからタンブンしましょう、ということではなく、タイで一番、徳の高い人にタンブンしてその効果を高いものにしたいからだ。王様が受け取ってくださったら老婆は無上の喜びを感じる。

タンブンはタイの人にとって喜び以外のなにものでもないように思える。お寺にとってこれ以上ありがたいシステムはない。しかし、その集められたタンブンはどう使われるのだろうか。「タイにおける寺院経営のあり方」といったレポートをネットで探したが見つからない。どなたか詳しい方がおられたら是非教えて頂きたい。(この項終わり)