料理の定番オックステール・スープ
冬のバザールで売っている野菜と言えば、人参、玉葱、ジャガイモくらいで、売り場の彩りは殺風景だ。それが3月、4月となるとホウレン草やネギ、カリフラワー、キャベツ、ピーマン、イチゴ、プラム、桑の実、ブルーベリー、イチジクなど次々にバザールの店頭はにぎやかになる。
イチゴも最盛期にはキロ40円くらいになる。こちらのイチゴは柔らかくて1キロも買うと、袋の中はイチゴの赤い果汁でびっしょりになる。気温が高いと悪くなるのが早いので、どんぶり2杯分のイチゴを1日で食べることになる。まるで食べ放題のイチゴ農園に行ったみたいになる。食べたあとは飽食のヘビのように暫らく動けない。
あれだけバザールを席巻していたイチゴ売り場が縮小し、値段が盛り返してきたな、と思っていたら5月の末にはイチゴを見かけなくなった。その代わり、赤いサクランボ売り場が広がってきた。日本だと100グラム数百円、出始めは一粒何十円という値段がつくサクランボだが、こちらではキロ単位で販売される。500グラム下さいというといやな顔をされる。値段は今、1キロ100円から150円。本を読みながら際限なく、甘いサクランボを食べることができるのもウズベクならではの楽しみであろう。
果物は一斉に売られ始めて、一斉に姿を消すので、いちばん安くて美味しい盛りは何時かを見極める必要がある。ウズベクの主婦は大きなポリバケツで、イチゴやブルーベリーを購入していく。一年分のジャムを作るのだ。だからこの時期、1キロ1000スム(100円)の砂糖の値段が50-100スム上がることになる。供給が一定の場合、需要が増えると価格が上昇するという経済の教科書そのままだ。
こちらのアパートは借りたらその日から生活できるように炊事用具からタオル、電化製品などすべて用意されている。外食は肉中心になりがちであまり健康にいいとは言えない。それで生まれて初めての自炊生活をすることにした。お米は朝鮮族が生産するジャポニカ種の米が手に入る。野菜もウズベクはほぼ日本と同じ緯度だからほぼ同じ野菜が手に入る。肉は統制価格になっている。高くなったとウズベク人は嘆くが、牛肉でキロ370円といったところ。不思議なのは肉はどこの部位でもほぼ同じ値段ということだ。すね肉もロースも同じ値段。
そこでよく自分が買うのはテール、牛の尻尾を1本350円ほどで買ってくる。1キロくらいある。オックステールスープは日本の高級フランス料理店では一皿3千円位するのではないか。
3,4リットルの水に、ざく切りしたジャガイモ、人参を500グラムずつ入れ、あと玉葱、ニンニク少々、それに1キロのテールを豪快に放り込む。準備にはジャガイモの皮むきを入れても30分もかからない。これを消えるか消えないかの小さい火で一昼夜煮ると肉は柔らかく、野菜は固い薄黄色の透明なスープができる。このスープに、今日はマギーブイヨン、今日は醤油、今日は味噌を入れて、と4,5日楽しむ。ラーメンのスープにも最適。やはり作って1,2目目が美味しいので、仲間を呼んで賞味してもらうことがある。美味しいと喜んでくれる。でも材料がいいからであって、単純な料理だから誰でもうまく作れる。
自分の作った料理を褒められるのは嬉しいものだ。日本にいる時、カミサンの手料理をもっと大げさに喜んでやればよかったと思う。