お宝購入ととろろ汁
■輸入和モノ店
歩道にシートを広げ、怪しげな骨董品を売っている露店を紹介したが、もう少し実用的な古道具を売っている店がある。場所は露店群の300 mほど手前、1号線から100mほどチェンライ市内に向かって左側、リトルダックホテルの斜め前にある店だ。名前は忘れたが、日の丸の看板を歩道上に出しているのですぐわかる。倉庫のような広い店内に、日本製の茶椀、お椀、湯呑、皿等の陶器類、日本人形、古着、果ては箪笥やソファ、自転車などが所狭しと並んでいる。
日本には家屋解体業という仕事があるが、恐らくそういった業者から、什器、家財道具を一括購入して船便で送ってきたものであろう。結婚式の引き出物に使われるような新しいお皿セット、湯呑セットはどこかのバッタ屋で仕入れてきたと推測される。
ランパーンで一昨年手に入れた、ヒビの入った湯呑をずっと使っている。ランパーンに行くたびに、いい湯呑を探しているのだが、まだ自分の好みに合うものがない。この古物店の陶器は日本製であるから、好みの形の湯呑もあるし、織部や志野ではないが茶道用の抹茶茶碗もある。湯呑は会社のロゴならまだしも、○○町内会、第4代共○会、果ては大阪葬祭、先祖代々などと書かれた湯呑まであって、いったいどこから持ってきたんや、と言いたくなる。ヒビの入った10B湯呑もそれなりに風格も出てきたし、無理して先祖代々のお仲間の湯呑を購入するまでもないか、と思っている。
■日本の山芋
昨年暮れに日本の山芋をメチャン在住のIさんから頂いた。彼は北タイで日本蕎麦の栽培から製粉までの一貫事業をやっている。日本のテレビ局にも取材されたそうだから、ご存知の方もいるかもしれない。野菜作りは余技。
山芋は大きく分けて長芋、銀杏芋、石ころのようなツクネ芋に分けられる。Iさんの芋は銀杏芋、銀杏のように手を広げたような形をしているので、仏掌芋と呼ばれることもある。子供のミットほどの大きさ、1個、ゆうに1キロは越える。数個頂いたので、4軒ほどおすそ分けして大層喜ばれた。日本の山芋はこちらでは貴重品である。
昔、母がとろろ汁を食べさせてくれた。子供のころ、両足で擂り鉢を挟んでゴリゴリととろろを擂った思い出もある。せっかく頂いた珍品、あのとろろ汁が食べたいなあ、と思ったが、擂り鉢がない。日本から持ってくるには重くて大変だ。
ところが、この古物屋の店先でいくつも積み重なっている擂り鉢を発見した。中古品もあるが、サラの新鉢もある。欲しい、と思ったが、こういう店では、足元を見られて吹っかけられることがある。そこで買物帰りに、ブアさんとこの店に行き、5寸ほどの中鉢を店奥に持って行かせ、価格を聞いた。主人はおもむろに鉢を秤の上に載せて、170Bという。この店の陶器は量り売りなのだ。200B即ち数百円なら即買い、と決めていたので、思わず、ヤッタ、と声を上げそうになったが、その嬉しさをぐっと抑えて、一番大きな8寸鉢(新品)を抱えて主人のところに持って行った。主人は同じように秤の上に大鉢を置き、270Bという。中鉢より重いからね、という感じ。
ウーン、200Bにならない? それじゃ250,お願い200、それじゃ200でいいよ。交渉成立。
■いい買い物だった
ところで擂り鉢とはいくらくらいするものか。楽天市場でググってみると、8寸の擂り鉢でなんと1万円を越す。すりこ木だけでも1本2千円だ。タイでは石鉢で唐辛子を潰して、ソムタムや炒め物に使用する。潰すためにすりこ木を使う。市場に行ったとき、太さ8僉長さ50僂里垢蠅殻擇70B(約240円)で買った。日本で買ったら1万2千円以上のセットが1000円弱で手に入ったことになる。
釉薬もかかっているし、高台には押し印がついてあるし、間違いなく日本製の擂り鉢とみた。鍋で濃いめの味噌汁を作る。味噌の香りを逃がさないため熱くしないことが大切だ。次に、頂いた山芋をすりおろす。すりおろした芋を鉢に移し、味噌汁を少しずつ加え、すりこ木で擂っていく。懐かしい音が響く。味噌汁と芋が混ざっていい色になっていく。生卵を一つ割入れて、黄身の色がとろろに吸い込まれていくまで丹念にすりこ木を回す。
梅若菜まりこの宿のとろろ汁 松尾芭蕉
静岡の鞠子にあるとろろ汁屋が広重の五十三次に描かれたことから、江戸時代に爆発的な人気を呼んだとか。とろろ汁の俳句では、こだわりの父が好みしとろろ汁、とろろ汁ふるさとはよきひとばかり、なども思い出す。
ところで味はどうであったか。チェンライでこんなものが頂けるとは、と感激の涙に咽び、Iさんに深く感謝した次第。
古物店の看板、売られている食器、バラバラの雛人形、擂り鉢とすりこ木