ハイシーズン
■乾季到来
陰暦8月の満月の日から11月の満月の日までお坊さんはお寺にこもって修行する。いわゆるカオパンサー(入安居)とオークパンサー(出安居)だ。この3ヶ月間は丁度雨季にあたっており、外を歩くと虫やミミズを踏み殺す、殺生の戒を破る恐れがあるのでお坊さんは外出しない。この時期、短期間出家して仏道修行に励む人もいる。公務員の場合、出家してきますというと、4ヶ月の休暇が認められるという。
そろそろタイのサッカーシーズンが終わる。タイのプレミアリーグ、パタヤユナイテッドで活躍する小川君のブログに、しばらく顔を見なかったチームメートが戻ってきて「出家してお寺にいた」と言うので思わず脱力した、とあった。川崎レイソルの選手が川崎大師へシーズン中におこもりしてしまうことがあるか。
お坊さんが厳しい修行をされている期間だからと、オークパンサーの日まで肉食、飲酒を控えるタイ人は多い。またこの期間、結婚式や大きなお祭りはない。オークパンサーが過ぎ、お坊さんの還俗や外出が許されると街は賑わいを取り戻す。
今年の陰暦11月満月、オークパンサーの日は太陽暦で10月30日になる。国民の休日ではないが、酒の販売、提供が禁じられる。この日、店を閉めるバーやレストランは多い。オークパンサーを過ぎると本格的な乾季入りとなる
■乾季は旅行のハイシーズン
いつタイを旅行したらいいでしょうか、と聞かれたら、せっかく来られるのでしたら11月から2月までのハイシーズンがいいですと答えたい。ホテルの宿泊費がローシーズンに比べ、2倍に跳ね上がるのだが、それだけのことはある。チェンライであればほとんど雨は降らず、気温は15度からせいぜい30度、気温の上がる日中でも湿度が低いのでまるで軽井沢にいるような爽やかさだ。
ゴルフをするにしてもトレッキングを楽しむにしても予定が立つ。突然の雨、風で中止、ということがない。
タイは1年中、花が咲いているのだが、やはり乾季の方が花の種類が多く色も鮮やかだ。ドイトゥンにある王母様のイギリス式庭園もこの時期が一番美しい。
庭園でポートレートを撮る場合、雨季に比べ、乾季の時の方が3割がた美人に写る。これは花が綺麗というだけではなく、空気が澄んでいて、直射日光が鮮烈だからだ。よくセミプロの撮影会の時、助手が反射板でモデルさんの顔を照らしているが、乾季の陽光は反射板を必要としないくらいクリアーだ。
雨に降り込められて、所在なくホテルの窓から濡れそぼる南国の街を見下ろす、というのもサマセット・モームの「雨」の一場面のようで悪くはない、と個人的には思うが、せっかくタイに来るのであれば、やはり乾季がいい。
ところで、日本旅行業協会がまとめたJTBなど日本の募集型企画旅行大手7社の海外パッケージツアー調査によると、タイ行きパッケージツアーは第3四半期の実績(人員ベース)が前年同月を100とした場合、7月104・2、8月145・7、9月113。第4四半期の予約状況は10月上旬同時期比で10月121・7、11月135・8、12月184・6と急増している。これは前年に比べ、半分以下に落ち込んだ中国、韓国パッケージツアーの不振が影響しているのだろう。
理由はどうあれ、ハイシーズンのタイを多くの人に満喫して頂きたいものだ。
■チェンライの観光穴場
乾季でなければなかなか行けない観光名所がチェンライにある。その名は「プラジャオ・クーナー」。プラジャオは神仏の意味、クーナーはランナー王国の6代目の王様の名である。チェンマイ年代記によれば在位は1367年~1388年、チェンマイの名刹、ワット・プラタート・ドイ・ステープを創建した王としても知られる。
プラジャオ・クーナーと呼ばれる仏様はクーナー王の顔を模したものという。この大仏は高さ20数mのガジュマルの木に絡め取られ、顔や左半身の一部が見えるだけだ。ガジュマルの木に封印されていたから、14世紀の仏像が現存しているのだとも言える。
タイには意外と古い仏像が存在しない。打ち続く戦火で徹底的に破壊されたからだ。その意味で貴重な文化財と言える。
プラジャオ・クーナーはチェンライ市郊外、ウィアンチャイのメーコック川沿いにある。メーコック川の土手が道路となっている。土手の下は今、一面の玉蜀黍畑となっているが、雨季には音を立てて濁流が流れる。プラジャオ・クーナーのある一角も濁流に洗われ、近づくことができないことがある。
ランナー王国に思いを馳せながら、古仏と静かに流れるメーコックを眺めるのはやはり乾季をおいて他はない。
写真はプラジャオ・クーナー、ガジュマルの木に隠れた仏像が見えるでしょうか。