チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ3年

イメージ 1

イメージ 2

イメージ 3

イメージ 4

介護ロングステイ3年

■季節の移り変わり
1月も下旬となり、田んぼでは代掻き、米作りが始まった。籾を直播きする田んぼが多く、田植えをするところは少ない。昨年、水害を受けなかったチェンライは従来通りの収穫だったが、アユタヤから南は洪水のせいでコメの出来は散々だった。というわけで米の値段が上がり、この辺りの農民は大喜びだった。今年の作付けにも力が入る。

日本であれば、代掻き、田植えは同一地域ならほぼ一斉に行われると思うが、こちらはまだ水を張っていない田、代掻きをしている田、もう早苗が10センチ以上伸びている田などバラバラだ。少々作付けの時期がずれていても収穫期に台風が来るわけでも低温被害が起こるわけでもない。水の管理さえできれば3毛作ができる土地柄だから、いつ作付けをしても米はできる。
運転手付きの大型のコンバインを雇って米の収穫する農家が多いが、作付けの時期をずらしてあるから農業機械の稼働率が上がる。日本の農家の様に各家で農機一式を買いそろえる必要はない。

3年前も同じように1月に米作りが始まっていたはずであるが、あまり記憶にない。周りをゆっくり観察する余裕がなかったのだろう。俗に3日、3月、3年という。どんなことでも3日やれば3月続く、3月もてば3年頑張れる。母も余命3月のはずが、あっという間に3年過ぎてしまった。

■確実に衰えてきた
この3年を振り返ってみると決して平たんではなかった。ゼリーをのどに詰まらせて窒息しかけたこともあるし、肺炎で2週間ほど入院し、足腰の筋肉が衰えて体がタコのようにグニャグニャになったこともある。もうダメか、と思ったこともあるが、幸い循環器系、消化器系が丈夫なので何とか持ち直し、今は平穏に暮らしている。

来た当初は元気に室内を歩き回っていたが、今は女中さん2人の介助がないと立つことも歩くこともできない。会話もほとんどなくなった。いつの頃からか、楽しみにしていたビールも「冷たい、苦い」と言って飲まなくなった。確実に衰えは進んでいる。でも我々が話しかけると「ハイ」とか「そうなの」と応えてくれる。まだしっかりしているようで嬉しい。

1月に日本から旦那寺の方丈さんがやってきた。兄の高校の先輩で、父の葬式や法事で昔からお世話になっている坊さんだ。
「方丈さんがお母さんに会いに来るよ、会いたい?」と聞くと頭を横に振る。「あれ、会いたくないの?」というと今度は頭を縦に振る。老いさらばえた姿を知人に見られたくないという気持があるのだろう。

認知症は脳が委縮するという「体の病い」であって、決して「心の病い」ではない。感情は昔のまま残っている。認知症を東北では「童返り(わらしがえり)」というが、施設によっては若い介護者が老人を子供扱いしているケースがあると聞く。自分がそういう扱いを受けたら、きっと苛立つのではないか。
介護に疲れた息子さん(60歳)が老母を「廃人」と書いているブログを見たことがあるが、そのお母さんはそれを知ったらどんなに悲しいことか。体が不自由であっても人としての尊厳を保持しているし、周りはそのことを忘れてはならないと思う。

■無事に1日が過ごせれば・・・
母は午前中寝ていることが多くなった。ブアさんが夜中に紙パンツの交換を行い、時にはミルクやお菓子などを食べさせることもある。
一晩中、母にかかりきりなので、睡眠不足となる。だから午前4時頃に2階の空き室に上がってきてござを敷いて寝る。6時前にサオさんが起きて朝食の用意を始める。我々は母がすやすや寝ていることを確かめて、7時ごろから朝食。

午前中に母が目を覚ませばサオさんがブアさんを起して、二人協力して母の着替え、清拭、ソファへの移動を行い、朝食を取らせる。朝食をとるとまた母は寝入ってしまう。午後はシャワーを浴び、さっぱりするとまたベッドで休む。サオさんもこの時一緒に昼寝をする。

我々が夕食を取る頃、先に食事をすませた母はベッドで何やら呟いている。サオさんが添い寝して肩をさすったり、話しかけたりして母を落ち着かせている。
もしカミサンがいてもこのように親身に世話はしてくれないだろうな、その前にお母様とは一緒には暮らせません、とカミサンに泣きつかれ、施設に預けることになったのではないか、などとグラス片手に話し合う。

いつでも母の傍らにいられる。可処分所得はともかくとして、可処分時間が豊富にあるということは有難い。サオさんに感謝しながら兄とまたビールを飲む。こうして一日が何事もなく過ぎていく。

写真上から「スーパーの米売り場」、「市場の米売り場」、「直播きの田んぼ」、「チェンライ市内」