一時帰国雑感
■映画
9月に日本へ一時帰国した。それからもう2ヶ月も経ってしまった。日本では食事をしても、映画を見ても、街を歩くだけでも故国にいる幸せを感じた。故郷の山はありがたきかな、と言う啄木の気持ちがわかる気がする。
タイでも映画を見るが、英語またはタイ語だから、アクション映画のようにセリフがわからなくても筋が追えるものに限られる。
チェンライでジュラシック・パークを見に行ったら、これがタイ語吹き替えになっていてほとんどわからない。恐竜施設の社長が自分を襲おうとする巨大なティランノザウルスに向かって、「ジャイ・エンエン(落ち着け)」と話しかけた瞬間に喰われてしまう場面があった。映画全体を通じて自分が理解できた唯一のセリフがこの「ジャイ・エンエン」だった。このフレーズはテニスコートでカッカしている相手によく使っている。
日本では「第三の殺人」の他に「ダンケルク」、「ボブという名の猫、幸せのハイタッチ」を見た。「ダンケルク」は1940年の西部戦線における英仏軍の大撤退の物語である。敗走する連合国軍は40万のうち35万人の撤収に成功する。
独軍に追いつめられ、混乱の中で救援船を探す二等兵、民間人でありながら英国軍兵士を運ぶため、自分の船を駆ってダンケルクへ赴く老船長、撤収を援護するため独空軍と戦う英国空軍パイロット、この3人のストーリーを重ね合わせながら息詰まるような撤退作戦が実行されていく。
IMAXの映画を始めて見た。映像はクリアで音響は迫力がある。大型スクリーンは客席の足元に迫っている。スクリーンの前を歩く人がいたが影がスクリーンに映らない。昔、小学校の体育館で上映会があった。その折、手で狐や犬の影絵をやる子が現われたものだ。宮沢賢治の童話にもそのような場面があったと思う。IMAXの時代はそんなのどかな光景は見ることができない。
「ボブという名の猫」はジャンキーのストリート・ミュージシャンが、猫を助けたことがきっかけで、みじめな生活から抜け出して、社会的な成功を掴むという英国であった実話を基にした作品。猫好きには堪らない映画かもしれないが、犬派の自分としてはそうかねえ、といった感じ。
なお、「ダンケルク」は先の大戦における史実ではあるが、映画のほうは全くのフィクション。実際にダンケルクに追いつめられた兵士の中にはインド人やアフリカ人兵士が多くいたが、映画で出てくる将兵はすべて白人だ。インパール作戦で英国軍が日本を破ったことになっているが、実際に前線で戦ったのはインド人兵士だったし、さらにナイジェリアから連れてきた黒人にも銃を持たせ、日本軍と戦わせた。現代でも白人は3Kの仕事は有色人種がやればいい、と考えているフシがある。彼らの差別意識について書きだすときりがないのでまたの機会に。
■ モーホーム
北タイの作務衣、モーホームについては今年の5月から6月に数本にわたって書いた「プレー旅行」で触れている。長袖、正式礼装の上下で価格は日本円で約1000円だった。故郷へ錦を飾るというほどの衣装ではないが、9月の東京をモーホームで闊歩するのも悪くない。自分ではそれほど違和感はないのだが、やはり、人の目には多少奇異に映ったようだ。高校の同級生がやっている医院に行ったら、開口一番、「お前、その格好で飛行機に乗ってきたのかよ」と言われた。ちゃんとGパンにシャツでしたよ。
銀座にある有名寿司店に行った。地下にあるのだが、降りようとした時、丁度、階段を上がってくる来る外国人と目があった。お互い、ニッコリ微笑む。アンタも外人か、苦労するよね、といった共感のスマイルだったように思う。
この格好でもおかしくないだろ?、日曜の新宿、歩行者天国を歩きながら娘に言った。答えは「結構おかしい、でもあれに比べれば」娘の視線の先には、金髪を編んで、フリルのついたスカートを穿いたアニメ・コスプレの女性がいた。推定年齢30超。あんなのと一緒にしてほしくない。
■アンチャン
アンチエイジングに効果抜群というアンチャンを土産にした。寿司屋やそば屋などでお湯とレモンの輪切りをもらってアンチャンの実演をやった。色が鮮やかなので皆ビックリする。店主がどんな味なのですか、と試飲していた。アンチャンは味がないのが利点でもあり、欠点でもある。それにあのブルーの色はまさにトロピカル、気温の高い日にレモンと蜂蜜、あるいはスピリッツとソーダで割って飲むのが一番。今は11月、木枯らしの下でのアンチャンでは気分がブルーになってしまうかもしれない。自分は健康に良いと信じて飲み続けているが。