イポドロームバザールへ行く
イポドロームバザールはタシケント最大のバザールといわれている。行き方は地下鉄ベルーニイ駅前から116番のバスに乗って終点まで行く。バスは地下鉄チランザール線のチランザール駅や終点のソビール・ラクヒモフ駅も通るのでそこから116番バスに乗ってもいい。
バスは冷房がついていないのでたいそう暑い。バス代は160スム(16円)だが車掌は40スムのおつりを出すのが面倒なので200スム札に50スム札のおつりを寄こす。老人が乗ってくると若い人が必ずといっていいほど席を譲っている。この国のバスや地下鉄には老人優先席はない。若い人が席を譲るから老人優先席を設ける必要がないのだ。
イポドロームバザールは衣料品専門バザールといっていい。高さ7,8メートルの巨大吹き抜け倉庫のような建物の中に紳士服、婦人服、子供服、シャツ、下着、靴下、ジーンズ、ウズベク女性が好んで着るアトラスという派手な流し絵模様の服地などがところ狭しと並べられている。天井が高いせいか、どの店も5メートルくらいの高さまで商品を並べている。ワンピースを2着縦にぶら下げることができる。もう夏の気候というのに毛皮コート屋もある。
衣料品とならんでサングラスや靴、サンダル、ネクタイなどもひとつの店で売っていて、トータルファッションをコーディネートできるようになっている。レイバンのサングラスをひとつ買う。はじめ5200スムと言っていたが3000スム(300円)で手を打った。支払いはドルででもできるらしい。バザールには、絶対に日本人はかかわってはいけないという闇ドル交換人が徘徊している。彼らの主業務はバザール商人の持ち込むスムをドルに交換することである。商品はウズベク・カザフ国境を越えた密輸によるものが大半だ。仕入れ決済にはドルが使われるので、ドルがけっこう幅をきかせている。
建物の広さは晴海の展示場くらいはあるだろうか。こういった巨大建物が3つある。そのうち2つは衣料品中心、残りのひとつは洗剤、化粧品、おもちゃなど雑貨類の店が多数入っている。お客は圧倒的にウズベク人が多い。建物と建物の間にはシャシリーク屋、プロフ屋などの飲食店がある。この造りも晴海を思い出させる。
紳士服はどういうわけか黒系統ばかりだ。町を歩いていても明るい色の背広を着てい
る人はめったにいない。学校でも先生も学生もみんな黒い背広を着ている。カラスの軍団だ。
街が何か地味で暗い感じがするのは男性がほぼ全員黒系統の背広、ズボンで歩いているせいもある。そのズボンの値段は18000スムから20000スム(1,800円から2,000円)といったところだ。御用とお急ぎでなければじっくり交渉して、1,200円くらいにまけさせることができるかもしれない。ズボンのすそ上げは店ではやってくれないが、バザールの建物を出たところにミシンの屋台がいくつもあり、そこで100円も出せば丁度よい長さにしてくれる。
イポドロームバザールには、ほかのバザールの衣料品販売業者が買い付けに来る。韓国の東大門市場と似ている。卸売り市場といっても小売もする。しかしジーンズやワンピースなどどうやって体に合わせてみるのだろうか。試着室などというしゃれた設備はない。
女性が試着をしている場面に出くわして疑問が氷解した。試着するとき、店の人が2,3人、店の前の通路に出てきて、白布をその女性の周りに掲げ、通行人から見えなくする。その中で女性はお目当ての服を試着してみるというわけだ。しかしちょっと白布を下げたら少なくとも店員は女性のあられもない姿を見ることができる。
バザールの通路には地べたに下着やサンダル類をならべているおばさんがいる。通路の人々に混じってコーラやファンタなどの清涼飲料水売りやタバコ売が行きかう。また大型リヤカーに荷物を積んだおじさんがなにやら掛け声をかけながら買い物客をかき分けて通っていく。なかなか活気があってよろしい。バザールを出ると赤い羽根募金のようにおばさんがびっしりと並んでいて、手に手に布切れ、シャツ、靴下、パンツなどを持ってわいわい言っている。もちろん安いですよ、とかシャツはいかがですか、などといっているのだろう。
大部分の衣料品は、中国製、韓国製、トルコ製などの外国製品だ。ワイシャツを見てみるとイタリア、フランスの一流ブランド品ばかり。ルイ・ビトン・パリと書いてあるワイシャツの値段を聞いてみると15000スム(1500円)、それが交渉しているうちに9000スム(900円)になってくる。もちろん本物ではなく中国製だ。中国の胡錦濤主席は本年4月に訪米した折、「中国は知的所有権を尊重すべく努力している」と発言していたが、是非ここのバザールを見学して欲しいものだ。