■披露宴へのお招き
5月のある日、Iさんから「ランパーンに住むYさんから結婚披露宴への招待が来たけれどどうします？」という連絡があった。ランパーンのYさんは在タイ30年、タイ人の奥様と仲睦まじく暮らしている。Yさんからはこれまで、タイ生活で心得ておくべきこと、例えば、病気、死亡の時の手続きなど、タイの暮らしのノウハウを伝授してもらっている。Yさんはタイに融け込んで、地域活動、慈善活動にも熱心に取り組んでおられ、上流階級にも知り合いが多い。
お二人の間に息子さんがおられ、有名大学を卒業した後、大手製糖会社にエンジニアとしてお勤めと聞いていた。その息子さんが結婚するので、是非その披露宴に、というお話だった。枯れ木も山の賑わいというし、Iさん共々、喜んでご招待をお受けすることにした。
手許に「民俗調査ハンドブック」という本がある。この本の人生儀礼の項に、産育、葬制と並んで婚礼という一章がある。婚礼は単に男女の結びつきというだけではなく、家と家、親族同士、個人の社会的地位の移動、更に宗教も関係するので、民俗調査では重要な意味を持つ。
これまで日本で仏式、神式、基督教式の結婚式を見てきたし、ウズベクでも何度か結婚披露宴に列席した。日常とは違うハレの世界であるし、へえ、こんなに違うんだ、と驚いたり、感心したり、と興味深いことは事実である。民俗調査をするほどではないが、好奇心を失ってはただの無気力老人、タイではどんな披露宴となるのだろう？ 面白そうではないか。
■服装に注意
Yさんが「披露宴」に招待して下さったのには意味がある。披露宴は18時からである。タイの結婚式にはお坊さんが来て、お経があって、両家の贈答品交換、その他もろもろの儀式があって、新郎新婦は朝暗いうちから儀式の準備をする。両親や近しい人はこれに付き合うのであろう。でも新郎のご両親の知り合いという薄き縁の我々は式は免除して貰って、飲み食い中心の披露宴の末席を汚すだけで済む、こういうことである。
披露宴というと服装が問題となる。ジャケットとネクタイならば問題ないが、10年のタイ暮しで持ち合わせがない。そこで、北タイの正装であるモーホームを着用して出かけようとしたら、メバーンのニイさんに注意された。紺のモーホームは葬式のイメージが強いから白のモーホームにしなさい。タイの披露宴では特にドレスコードはないが黒、紺などの暗い色は避けるのが礼儀という。慌てて白の上下に着替える。
■概ね日本と同じ趣向
18時から開宴と聞いていたので、15分ほど前に会場である高校の大講堂へ行ってみた。入口でYご夫妻とお目に掛かりご挨拶。ノートに記帳し、記帳台の箱にお祝儀袋を投入。会場には丸テーブルが無数にある。少なくとも700人は来場するという。タイの結婚披露宴は300人くらいが普通、新郎新婦の友人、知人ばかりでなく我々のような両親の知り合いや親族の知り合いも来る。更にその知り合いが友達を誘ってくるので、ご両家と全く面識のない人が料理を食べているというのが当たり前。でも700人は凄い。ランパーンの名士はすべて集合するのではないか。
Y夫妻に外人夫婦2組、タイ人夫婦1組の席に案内された。バーミューダから駆けつけたフランス人と駐タイ英国大使館に勤務していたPh.Dを持つ英国老人、2人とも奥さんはタイ人だ。18時を過ぎたが会場は10％の入り、どうなるかと思ったが、18時半を回ると概ね、会場が埋まってきた。正面のステージでは数人の楽団が演奏している。ステージに新郎新婦が登場したのは19時20分だった。それまでの時間、新郎新婦は、知人あるいは友人とグループ別に写真撮影を会場入り口で行う。我々も此の撮影会で初めてカップルに紹介された。新郎は29歳、爽やかな青年だ。新婦も美しい。この日はやはり朝早くから数々の儀式をこなしてきたという。
両名が壇上に上がると「私は新郎の友人でXXと申します」と(多分)自己紹介した男性が司会進行、二人の慣れ初めを描いたアニメ映画が放映された。会場は広いので場内各所に設けられた大型スクリーンでアニメやら新郎新婦のアップを見ることができる。このあと、両家の挨拶やら友人寄り集まってのブーケトス、ウェディングケーキカットなど、ほぼ日本の結婚披露宴と同じような趣向で宴は進んだ。食事のフルーツが出た後、外人夫妻が席を立ったので、我々も一緒に退席した。タイ人は皆着席のまま。壇上では舞踊が始まり、その後も宴は続いたようだ。始まりと終わりの時間がわからない、が日・タイの披露宴の違いといえようか。
写真は会場、ステージ、ステージ上のご両親と新郎新婦、アニメの馴れ初め、新郎新婦、新婦のお友達
