フルバンドの生演奏
■演奏会
水曜日にタイ語の授業から帰ってきた兄が言った。金曜日の夜にチェンライのホテルでオランダから来た楽団の演奏会があるらしい。弦楽器を持った女性楽団員が写ったパンフを見たという。ジアップ先生の話では観客が踊り出すほどすごい演奏とか。まさかチェンライにアンドレ・リューが来るとは思えないが、オーケストラかフルバンドであることは間違いない。チケット代金は3000B、一般のタイ人、また自分のような下流老人には手の届かない値段だ。でも、バンコクやチェンマイのような大都会であればいざ知らず、北の小都市チェンライに海外からの楽団が来ることは珍しい。
日本での音楽会なら1万円するのはザラだから、と翌日、会場となるザ・ヘリテージ・チェンライにチケットを買いに行った。このホテルは以前、リトルダックという名前だった。2,3年前に閉鎖され、廃墟となっていたが、最近、全面改装してホテル名も新たに新規開店となった。ホテルのこけら落としで海外からの楽団を招いたのか。
レセプションで演奏会があることを確認し、3000B出したら係員が吃驚、チケット代金は1枚399Bだった。ジアップ先生の情報はいつもどこか間違っている。
■1000人収容の大会場
この日、演奏するのはアムステルダムに本拠を置く「Biggles Big Band(ビッグルズ・ビッグバンド)」、1985年創立のジャズ・オーケストラだ。グレン・ミラー、デューク・エリントン、シナトラからディーン・マーチンまで幅広いジャズ、ブルースを得意とする。縁あって2006年から毎年タイ各地で演奏している。タイの山岳民族支援のチャリティが主目的らしい。
6時開演となっていたが、客はまばら、多くはロビーでワインやビールを飲みながら軽食(無料)を食べている。タイポップスのコンサートもそうだったが、この日も真打が出てくる前に前座の演奏があった。初めにクリスタルガラスの器を反響させながら、変なおばさんが声明みたいな歌を歌い始めた。いい加減勘弁してよ、と思っていたら司会者が演奏に割って入って「xxさん、ありがとうございました」と強制的に終了させてしまった。さすがタイだ。
ラチャパット大学音楽部の合唱やサックス独奏等のあと、壇上にビッグバンドとチェンライ・ユース・オーケストラの混成楽団が上がった。この頃になると会場は8割ほどの入り、ファランが3割くらいか、チェンライのセレブも勢揃い、といった趣きだったが、奥様方のカクテルドレスやパーティドレスが浮いていて、雰囲気にそぐわない。鹿鳴館時代の外国人も自分と同様の感想を抱いたのではないか。
■王室と共に
舞台正面に2つ、左側に1つ大型スクリーンがあって、曲に応じて写真や動画を映し出す。ある曲ではシリキット王妃の20代の頃のお写真が次々に表れる。溌剌としてお美しい。また、サックス奏者が独奏を始めた瞬間、会場が歓声と拍手に包まれた。自分は知らなかったが先ごろ亡くなられたプミポン国王の作曲された曲とのこと。現天皇、皇后両陛下が皇太子時代に訪タイされたことがあった。バンコクからチェンマイまでの機内で、プミポン国王が自らサックスを演奏してご夫妻を歓待したという話が残っている。プミポン国王はサックスばかりでなくトランペット、ギター、ピアノ、バイオリンなどを演奏された他、50曲近いジャズやブルースを作曲されているとか。
楽団もタイに大サービス、中学生も交じったローカルの(下手っぴの)オーケストラとの共演も楽しそうにこなすし、マイウェイを歌ったボーカルは「アイ・ディッド・マイ・ウェイ」を一部「アイ・ドゥ・ラブ・タイランド」と替えて喝采を浴びていた。
■アンドレ・リュー以上の盛り上がり
バンドリーダが「皆さん、踊ってもいいんですよ」と呼びかけるがタイ人は中々踊らない。シング・シングあたりで、昔はロックンロールでブイブイ言わせたもんよ、といった感じのファラン老人が若いタイ女性をクルクル回しながら踊っていたくらい、その後も踊るのはファランばかりだ。バンドリーダは携帯を取り出し、ポチポチ押して懐中電灯をつけ「皆さん、曲に合わせて左右に振って下さーい」。こっちは入場前に演奏の邪魔になるかと電源を切っていたが会場はスマホライトで一杯になった。
タイ人もだんだん乗って来て、終盤21時を過ぎて「茶色の小瓶」が演奏された頃には会場総立ち、老いも若きもファランもタイ人も狂喜乱舞、トロンボーンやサックス、トランペットも客席に降りてきての演奏で盛り上げる。399B払ったんだから、というわけではないが自分もファランやセレブの輪に入って大いに楽しんだ。
ジャズって本当にいいですね。
写真はBiggles Big Bandのパンフ、入場券、国王ご夫妻、ベニ―グッドマンと共演する国王、会場フィナーレ