ドクターフィッシュ
■ラオスでも体験していた
ラノーンのポーラン温泉の下をを流れる小川にドクターフィッシュがいて、足をきれいにしてもらったことは書いた。全身を水に浸してもお腹や背中をつつく魚はあまりいなかった。ドクターフィッシュは足が好きなのだろうか。どこかで同じような経験をしたなあ、と記憶をたどってみると、数年前、ラオスの世界遺産、ルアンプラバンに行った折、郊外にあるクアンシー滝でこのドクターフィッシュに角質を突っついてもらったことを思い出した。クアンシ―滝は最上流の滝から下流に向かって、乳白色の水を湛える段々式のプールがいくつか連なっている。緑に囲まれた天然プールで誰でも浸かってみたくなる。ルアンプラバンはファランに人気の観光地であるから、クアンシ―滝では白人娘がビキニで水と戯れている様子を観察できる。見るだけはタダ、年を取ると楽しみが少なくなるのであるから、ご同輩はサングラス持参で是非、クアンシー滝を訪れて頂きたい。
岸の岩に腰を下ろし、足を水に浸すと、無数のドクターフィッシュが集まって来て、足をツンツンしてくれる。
あるブログに「クアンシー滝では天然のドクターフィッシュがいて角質取ってもらい放題」とあったが、日本では15分で1000円は取られるらしい。クアンシー滝の入場料は300円足らずであるから、5分間、足を漬けているだけでモトが取れる。
■日本でも体験できる
ドクターフィッシュはトルコ、イラン、イラク、シリア、レバノン周辺、チグリス、ユーフラテス流域が原産地である。古くはクレオパトラが愛用していたとされ、歯が無いため肌を傷つけることもなく、化学薬品を使うこともない。皮膚を吸い取るようについばむ習性と、ついばむ際の小刻みな刺激や振動が皮膚の代謝を促進させ、「自然のヒーリング効果」及び「マッサージ効果」、「リラクゼーション効果」が期待され、アトピー性皮膚炎・乾癬など皮膚病に治療効果があるともされる。また、臆病なはずの小魚がヒトに寄って来ることから、心の弱った人にも効果があるとされる。
ドイツやトルコではドクターフィッシュによる治療が保険適用の医療行為として認められている。近年、日本でも皮膚病の治療効果が注目され、水族館・動物園以外にも日帰り入浴施設などで「フィッシュセラピー」としてのサービスが提供されている。
別に心が弱っているわけではないが、必死に足の指や脹脛を突っつく小魚の群を見ると心が和む。足にある無数のツボが適度の刺激を受けるので体にもいいように思える。ポーラン温泉のドクターフィッシュも無料で時間無制限、日本だったら15分で1000円だよ、という満足感にも浸れる。心身両面に良い影響があると思う。日本ではドクターフィッシュの貸し出し業者、生産業者もあり、特別養護老人ホームからの引き合いが多いという。
ツボを刺激して貰うと認知症の改善に役立つかもしれない。将来、どこかの特養でドクターフィッシュに足をつついてもらいながら、コレ、どこかでやったことあるなあ、と考えている自分を想像するのも悪くはない。
■下火になった
10年ほど前はドクターフィッシュを入れた水槽をチェンライの街角や土曜市で見かけたものだが、最近はチェンマイでも見かけなくなった。飽きられてしまったのか。確かに気持ちは良いが、貯金をはたいてドクターフィッシュの店に通い詰めるといった話は聞いたことがない。それに、いつも角質ばかり食べている魚も可哀そう、たまにはもう少しマシな餌を食べてもらいたい、という気がする。
元々、トルコに生育するドクターフィッシュは餌となるプランクトンや藻が十分に育たない温泉内に物理的に閉じ込められた(隔離された)ため、常に餌不足の状態である。そこに観光客がやって来て温泉に足をつけるので、他に餌がないから足の角質でも彼らにとってはご馳走、ということになった。
だから、プランクトンや藻などほかに餌が豊富にあれば、無理して足の角質など食べない。水につけた足にドクターフィッシュが群がるのは、非常に珍しい生態学的適応の例であるという。他に喰うもんがないんだからしかたねーよー、という魚の声が聞こえてきそうである。
水槽での街角フィッシュセラピーが下火になった理由は、もの珍しさが薄れたことと、不特定多数の人が足を突っ込むわけだから、衛生的とは言えないことにある。いくつかの感染症、例えば水虫への感染が疑われる。街角の水槽ではなく、ラノーンのポーラン温泉、ラオスのクアンシ―滝をお勧めする理由はここにある。
写真はラノーンのポーラン温泉の川とドクターフィッシュ、後半3枚はラオスのクアンシ―滝