■シャム民族5000年の歴史
タイの文化世界遺産は「スコータイの歴史上の町と関連の歴史上の町」、「古都アユタヤ」それに「バーンチエン遺跡」の3つである。スコターイやアユタヤは13世紀とか14世紀に興った王朝の都があったところ。そう古いものではない。これに引き換え、バーンチエン遺跡は紀元前3000年に遡る。
この遺跡の発掘が始まったのは40-50年前、つい最近のことだ。もっと早く発見されていたら黄河文明・メソポタミア文明と並んで、タイがアジア文明発祥の地、と教科書に書かれていたかもしれない。
アメリカの学生がウドンタニ県バーンチェン村を歩いているとき、石に躓いて転んだ。と、転んだ手に壺の首が引っ掛かった。掘り返してみると、これがまさしくコケ猿の壺ならぬ先史時代のバーンチェン土器、という漫画のような話もあるが、昔から村人たちは田んぼから掘り出した壺を生活用具として使っていたらしい。それで現地の学校の先生とか考古学に趣味を持つ医師が、この土器はもしかして考古学的意味を持っているのではないか、と小さな博物館を作った。そのあとにタイ文部省の発掘が始まったとのこと。発掘によりバーンチエンでは、紀元前3000年頃から稲作や豚などの家畜飼育が行われ、ガラスや、青銅器・鉄器などが使われていたということがわかった。
この有史以前の文明を築きあげた民族については今のところ不明である。先史文明がタイ国内に存在していたことが証明されたのだから、タイも「シャム民族5000年の歴史」を吹聴してもいいと思うのだが、タイはそこまで図々しくない。どこかの国と違って恥を知っているといえよう。
■中国5000年の歴史
中華文明（黄河文明）の起源は、青銅器と甲骨文字文化で知られる「殷（イン）」（紀元前1600年ごろ～1046年）とされている。とはいえ、20世紀初頭までは長らく「殷」の存在自体が疑問視されていた。1926年から河南省で殷の遺跡「墟（インシュィ）」が発掘され、学術的にも殷王朝の存在が立証されるに及び、この「殷」から数えて、ざっと「中国3000～3600年」説が生まれた。「殷」以前の確たる王朝遺跡はまだ発見されていないので、「伝説を混ぜなければ、中国3000年の歴史、が妥当」と考える学者は今も多いようである。
「中国4000年の味を伝える幻の麺」という明星食品中華三昧のコマーシャルがあった。1980年代になって、殷の前に「夏王朝」があったとすれば歴史は紀元前2000年に遡る。従って中国は、中国4000年の歴史と言い出した。
1990年代中期以降、愛国主義の高揚とともに「新石器時代の高度な文明も含めるべき」との説が脚光を浴び、新発見の原始稲作遺跡・良渚（浙江省）、青蓮崗（江蘇省）などは、紀元前2700～3400年前のものということで、今は「中国5000年の歴史」が中国が吹聴するところの通説となっている。習近平は2012年11月、党総書記就任演説で「われわれは偉大な民族だ。5000年にわたる文明発展の歴史の中で、中華民族は人類の文明の進歩に不滅の貢献をしてきた」と述べている。
新石器時代を自国の歴史に含めるのであれば、世界中「○×国5000年の歴史」の国ばかりになる。ドイツのデュッセルドルフ郊外のネアンデル谷、フェルトホッファー洞窟からネアンデルタール人の化石が見つかっているが、ヒットラーだってゲルマン民族30万年の歴史、などと言わなかった。
■言わぬが花
歴史家、宮脇淳子さんの説によると、歴史とは歴史書が書かれたところから始まる、という。つまり、西欧の歴史はヘロドトスが「歴史」を書いた紀元前5世紀から、中国の歴史は司馬遷の史記が書かれた紀元前91年から、日本の歴史は日本書紀が完成した養老4年、西暦720年から始まる。
宮脇説に従えば、中国は2100年の歴史、ということになる。そしてその2100年のうち、1500年が植民地の歴史だ。偉大な漢民族がどうして1500年も異民族の支配に甘んじなければならなかったのか。遼(契丹)、元(モンゴル人)、清(満州人)は言うに及ばず、隋や唐も北方遊牧民族の鮮卑が建国した王朝と言われている。
日本は島国だから、縄文、弥生時代から現代まで同じDNAの人々が住み続けている。日本民族5000年の歴史、と言っても間違いではない。でもそんなこと言ってもね、という気持ちがあるから言わない。5日27日にオバマ大統領は広島を訪問する。日本人は初めての米国大統領訪問の気持ちは理解している。お隣の国のように謝罪と賠償を求めて泣き叫んだりはしない。死者の数をでっち上げて責めることもない。そんなことを言ってもね、これは日本人の民度の高さを示している、と言っていいのではないか。
24日から30日までチェンライ市内でリンチー祭りが開かれています。売られていたリンチー、キロ60Bから。5，6枚目の写真は現在のラムヤイ、1月後には食べられる大きさになります。
