介護ロングステイ6年6カ月
■ニイさん一時帰国
母を伴ってチェンライに来て、6年6カ月経った。偶然ではあるが、タイに来て書き始めたブログがこの号で666号となった。これだけ6が揃うとおめでたい気になるが、新約聖書のヨハネ黙示録によると悪魔は6、あるいは666の数字を好むという。それほど縁起のいい数字ではないようだ。ヒットラーは666の数字を名前に持っていたというし、サンフランシスコ地震、ロスアンジェルス地震、阪神淡路大震災、湾岸戦争勃発、東日本大震災の日はすべて666の数字に置き換えられるという。いわゆる陰謀論、都市伝説の域を越えない話であるが、つまらぬ好奇心で6という数字の意味をネットで読み漁り、すっかり時間を無駄にしてしまった。しかし、こういった無駄な時間を楽しめるのも、可処分時間豊富なタイの生活とパソコンのお陰。
先月中旬に女中のニイさんが、ラオスに住むお父さんの見舞いに帰国した。前々からお父さんは体調を崩しており、延び延びになっていた里帰りを実行したわけ。ラオスは外国だから帰るのも大変と思われるかもしれないが、彼女の実家のあるラオスのボケオはチェンライから直線距離で120―130キロ。国境のメコン河を渡る橋もできたし、東京から大井川を渡って静岡に行くよりもずっと近い。
それで7月初めまで2週間ほど女中さんがブアさん一人になった。ブアさんはつてをたどって、ニイさんの不在中のお手伝いさんを確保しようとしたが、中々難しい。ブアさんの村から応援に来てくれた女性も半日足らずで姿を消した。チェンライの市場で物売りをしていたおばさんが、その日当だったら通いで行きますと言ってくれたが、彼女も年寄りがいるのでは、と土壇場になって断ってきた。サバイ、サバイが心情のタイ人だから、寝たきり老人のいる家はやはり敬遠されるのだろう。
■ノルウェーの友人から
結局、母の世話はブアさん一人にかかることになった。もちろん、自分も手伝うのであるが、夜の紙パンツ交換、食事、清拭、母の食事の世話などは彼女しかやらない。この間に掃除、洗濯、食事の準備、時には洗車も行うので大層忙しい。人間忙しいと不機嫌になる。
ブアさんの村からノルウェーに嫁いだ女性がいる。ブアさんの親友である。彼女はブアさんの口座に3万B、5万B、とまとまったお金を振り込んでくる。ブアさんはそのお金を引き出して、指定のお寺にタンブンへ行く。タンブンすると住職が、お経をあげる。この模様をノルウェーの友人に電話で実況中継する。坊さんは確かにX万Bのタンブンを拝受いたしました、と電話口でお礼を言う。ブアさんに、振り込み金額から1万Bくらいポケットに入れてもいいんじゃないの、とそそのかすのだが、彼女は「バーブ(悪行)」と呆れたような目つきでこっちを見る。タンブンに行く時は、自分が運転手となってブアさんをお寺まで運ぶ。運転手日当、ガソリン代は自分のタンブンである。「助け合い。ママさんが健康でいられるのもタンブンのお陰だからね」といわれると、面と向かって反論する気が無くなる。最近はブアさんの言うとおりかも、と思うようになってきた。
先月末のことだが、ノルウェーの友人がご亭主、2人の息子と共に、タイのフアヒンにやってきた。ブアさんに往復のチケット代を出すから海へ遊びに来ないか、との誘い。私も6年半、休みもなく働き続けてきましたので、3日ほどフアヒンに行かせて下さい、という。ウーン、ニイさんはいないし困るなあ。兄は仕方ないんじゃないの、というが、男手だけの介護は大変だ。いい顔をしなかったらブアさんは怒りだして、フアヒンは1週間、そのあと以前修行していたサラブリのお寺に1月ほどお籠りをしてくる、と言い出した。
■ニイさん帰らず
この時点で多分、ブアさんは行かないだろうな、という気がした。人間興奮している時は時間を置いて話すのが一番いい。それはあとで話そう。
結局、多少の手当てを出すことで、ブアさんはフアヒン行きをあきらめた。ブアさんは公休無しで何年も働きづめだ。3年前に自分の家を建てたが、まだ一人で泊まったことはない。好意につけこんで働かせているようで申し訳ない。
ニイさんは7月初めに復帰したが、復帰3日目にお父さんが亡くなった、とラオスに戻ってしまった。また、お手伝いさんが一人になった。タイ庶民の葬式は3日ほどで終わるが、ラオスの葬式は10日かかるという。葬式から2週間以上経つが、ニイさんからは何も連絡がない。
ブアさんは一人でも大丈夫、というが6年6カ月、666号の数字に祟られ、何か良くないことが起こるような気がする。
写真は団地のタンブン