チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ6年3カ月

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■ 床ずれの心配
母の状態は相変わらずである。よくもなく、悪くもなく落ち着いた日々を送っている。食事、トイレの時以外はベッドで寝ている。寝てばかりいると床ずれができる、と本に書いてある。
床ずれは、医学的には「褥瘡」(じょくそう)という。「褥」は「ふとん」のこと、「瘡」は「できもの」のこと。長期間、寝込んでいるときに生じるできものという意味である。マットや布団、車椅子などと接触する部分の皮膚が、長い時間、続けて圧迫されて血流が悪くなり、その結果、皮膚や皮下組織、筋肉などへ酸素や栄養が行きわたらなくなり、死んでしまった状態になる。

ネットで床ずれの写真を見ることがあるが、たいそう痛々しい。マットレスの改良や、介護の質がよくなって、日本で床ずれのできる入院患者は2002年の4%から最近は2%台に減っているという。床ずれは自宅介護の問題と言えそうだが、こちらでは逆だ。何度かシルブリン病院に入院したことがあるが、入院した時に限って腰に床ずれができた。退院すると、女中さんが軟膏を塗り、寝位置をコロコロと変えて床ずれを治してくれた。

女中さんはいつも清拭のあと、ベビーパウダーをふりかけて、皮膚の乾燥、清潔を保つ。皮膚が乾燥しすぎる時はクリームを塗る。ともかく肌の清潔を保つことが、床ずれを防ぐ第一歩のようだ。紙パンツ交換のたびに寝ている姿勢を変え、小型のマクラを腰や肩にあてる。もう母は自分で寝返りを打つことができない。女中さんの行き届いた介護がなければ、床ずれ悪化で入院、入院して床ずれになったことを考えると、そのまま敗血症でご臨終ということも考えられる。女中さんの毎日の介護には本当に感謝している。

■6年前の女中さん
チェンライに来た当初、女中さんとの距離がわからず、また言葉が通じないこともあって、お互い感情の行き違いがあった。母も一時的に病状が回復したのはいいが、徘徊老人になるのでは、と思うくらい活発に動き回った。一人にしてはおけないので、女中さん一人が付き切りになる。掃除、洗濯の一般家事に加えて、母の監視業務があり、神経が休まらない。そんなこんなで女中さんが目まぐるしく交代した。
2009年4月にポンさんという近くの村に住む女性が我が家に来てくれた。年の頃は60ほど、4月は農閑期なので、田植えが始まるまでいうことで泊まり込んでくれた。農作業で鍛えているせいか小柄ながら背筋がしゃんとして、てきぱきと家事ならびに母の世話をしてくれた。2カ月ほどでやめたが、ブアさんにまたポンさんが来てくれないかな、と言った覚えがある。

先日、ブアさんが買い物の帰りに、突然、ポンさんの家に寄って行こうと言い出した。何だろう、彼女の家はいつも自分が通る国道を5分ほど奥に入った田んぼ沿いにある。行ってみると敷地にテントが張ってあってその下でポンさんとご主人が悄然と座っていた。しょんぼりしているのも道理、テント横の彼女の家は丸焼けになっていた。2日前のことらしい。火事跡特有の焦げ臭いにおいが残っていて家の周りにあったマンゴーの樹の葉っぱも白く枯れている。ブアさんは特殊ネットワークでこの惨事を知ったらしい。6年ぶりに会うポンさんはすっかり老けこんでいて、顔を見てすぐ彼女とはわからなかった。

■ポンさんにタンブン
ブアさんは、我が家に戻ると、引き出しや戸棚を整理し始めた。使わなくなったヤカンや包丁、皿などを袋詰めしていく。ママさんが着なくなった古着も袋に入れる。ママさんが着るかどうかはどうやら彼女の独断によるらしい。
更にブアさんはポンさんに応分のタンブンが必要、という。傷心のポンさんのことを考えるといくらかは援助しなくては、という気はあった。翌日、大きな袋を5つ車に積んで、ポンさん宅に行った。ポンさん夫婦は前日と同じようにテントの下に座っていた。そう大きな金額ではないがポンさんに手渡した。我々の到着前にもタイ人がポンさん夫婦に援助物資を渡していたところを見ると、被災助け合いシステムがタイ社会にもあるのだろう。

ポンさんはまだ母が生きていることに吃驚して、何かの時にはお手伝いに馳せ参じます、と言ってお札を押し頂いた。メコン出版「タイ人と働く」という本には、ボスは部下の個人生活に深く関与する義務があるというタイ特有の社会構造が詳述されている。やめた女中さんへの援助はタイでは当然のことか。母のことよりポンさんには生活再建を第一に考えてほしい。それにしてもタイに暮らすといろいろなことが起こる。

写真は「6年前のポンさん(右)とプアさん」「左が現在のポンさん」「全焼した家」「テントと段ボールに書かれた援助依頼文」