■飲みながら
シンハパークで開かれたアサニ―・ワサンの野外ライブコンサートに2万人以上の観客が集まったが、驚くほどの動員数ではない。2000年8月に茅ヶ崎公園野球場で開催された「サザンオールスターズ茅ヶ崎ライブ、〜あなただけの茅ヶ崎〜」には2日間で4万6千人の観客が来場した。また、入りきれない6千を超えるファンは海浜駐車場にしつらえられた巨大スクリーンでライブを楽しんだという。この時、桑田圭祐はスクリーンを通して会場外のファンに呼びかけた。スクリーンの桑田クンにファンは大きな歓声で応えた。
このようにロックコンサートは歌手、ファンの気持ちが一体化して盛り上がっていく。サザンの茅ヶ崎ライブについては、実際に行ったわけではなく、書物、ネットによりますと…という程度の知識しかないのだが、アサニー・ワサン公演のノリを見ると、茅ヶ崎ライブの盛り上がりはすごかったのだろうと想像できる。
同じロックコンサートでもやはり日タイの違いはある。茅ヶ崎ライブでは4時間全36曲の演奏に観客は文字通り、「酔った」わけだが、あくまでもしらふ。多分、会場内で酒は飲めなかっただろう。こちらアサニー・ワサンの公演のスポンサーがシンハ・ビールということもあって、フェンス内の公演会場には2カ所の生ビール販売所が設けられていた。ファンはビールを飲みながら演奏を楽しめる。会場の外の無料席、巨大ビヤガーデンでももちろん飲めるし、会場内と違ってソーセージやらチキンフライのつまみもある。チェンライのコンサートは演奏に酔い、ビールに酔い、である。ノリがいいのは当たり前か。
■酒飲みに嫌悪感
思うところあって、禁酒を続けている。コンサートに行った日は送迎の運転手も兼ねているからもちろん飲まない。タイ人は明るいうちから生ビールをバンバン飲んでいる。ウィスキー持参のグループもいる。だから開場を待っている時も、最前列に場所を取った時も周りが酒臭くて不愉快だった。3か月前の自分だったら、シンハの生ビールが煙害の消えた爽やかな公園で飲めるのだから、ま、運転はあるが、帰るまでに醒めるでしょう、とジョッキを空けていただろう。他に運転してくれる人がいれば、ラオカオ持参で行ったかもしれない。それなのに、自分が飲まないと、酔っ払いを疎ましく思う。ということは我が人生、お酒を飲まない人たちに不愉快な思いをさせてきたのだと気付いた。下戸の友人の寛容さに感謝とお詫びを申し上げる。
■ステージを抜け出す
最前列で、首が痛くなるのも顧みず、ステージを仰ぎ見て、時には周りに合わせて腰や手を振っていたのだが、傍らのジェムちゃんのノリが今一つ。アサニー・ワサンの演奏が始まって1時間ほど経ったら、トイレに行きたいと言い出した。じゃあ、一人で行ってまた戻ってきたら、というと泣きそうな顔になった。郊外の田舎に住んでいてチェンライ市内に来ることは稀、生まれて初めてのコンサート、こんなに多くの人に囲まれることはなかったのだろう。
それに、タイでは新聞ネタになることはあまりないが、女の子が誘拐されることがよくある。日本だと誘拐犯の目的は身代金だから、被害者家族に必ずコンタクトがある。そこからアシが付いてほとんどの場合、犯人は御用となる。タイの誘拐犯は被害者家族に連絡はとらない。そのまま子供をミャンマーやラオスに連れて行って、あるいは乞食や売春窟の親方に売り飛ばしてしまう。
何年か前、チェンライの大型スーパーで幼女が誘拐され、最近までスーパーの駐車場に尋ね人のポスターが貼ってあった。もう迷宮入りだろう。
ジェムちゃんはそれほど美人ではないので、誘拐される惧れはないと思うが、それでもいたいけな少女、自分が同行することにした。出入り口で腕に青いスタンプを押された。再入場の時はこのスタンプを見せればＯＫ。
■タイでも非常識？
用が済んでもジェムちゃんは会場内には行かないという。自分と同じく、大音響で消耗したのだろう。ビヤガーデン片隅の椅子に座った。ステージが豆粒ほどに見えるが、大型スクリーンがいくつか設けられており、ステージが映し出されている。演奏も聞きやすい。また、ＩＣレコーダのスイッチを入れた。この時、気づいたのだが、コンサートでの録音はいけないのではないか。最前列で何枚も演奏中の写真を撮ったが、その度にフラッシュが光っていた。これも多分、禁止行為。
タイに6年もいると、日本の常識を忘れてしまう。帰国したら、間違いなく問題老人として顰蹙を買うことになるだろう。
写真は会場、ビヤガーデンの一部、ジェムちゃん、アサニーとワサン
