チェンライの3月は乾季から暑季へという季節の変わり目、午後は30度を越える暑さとなるが、朝は15度以下に下がる日もある。1日の温度差が20度を越える日が珍しくない。東京で日中の寒暖差20度、例えば朝は氷点下、午後は20度前後と言う日があったら、体が戸惑ってしまうだろう。服装も1日中同じというわけにはいかない。
チェンライに長く暮すと朝の15度は「厳寒」という気がする。湿度が比較的低いので30度でも日陰にいればそれほど暑さを感じない。でも極端な温度差はやはり健康にはよくない。この時期、野焼きの煙害の影響もあって咳、喉の痛みなど風邪の症状を示す人が多くなる。
母も風邪をひき、声が出なくなった。熱はないのだがかなり咽る。終夜、ブアさんが付き添って、大型スポイトで喉に絡まる痰を吸引するのであるが、それも間に合わず夜中に3度吐いたという。その度に着せ替え、ベッドの掃除。前日まで食欲はあったというが何と言っても89歳の高齢、誤嚥とそれが原因の肺炎が心配だ。老人性の肺炎には熱が出ないことも多い。
一応、大事を取って入院させることにした。
■慣れた入院
家から2キロほど離れたシルブリン病院には來タイ以来お世話になっている。入院も数回に及ぶ。でもここ2年以上、通院も入院もしていなかった。 まず、電話で病院の救急車に来てもらう。自分たちの運転する車で母を病院に運んだこともあるが、有料ではあるがやはり病院差し回しの救急車は便利。ほどなく到着した救急車には屈強な看護助手が乗っていて、手早く母をベッドからストレッチャーに移し替えて、救急車に乗せる。
我々が救急室に到着した時には、母は救急ベッドに寝かされていて、傍らにブアさんが付き添っていた。アメリカの医療ドラマ「ER」では次々に急患が運び込まれ、まるで戦場さながらの緊迫感が漂っていたが、タイのエマージェンシー・ルームは至ってのんびりしたもので、患者をよそに看護師さんや看護助手が部屋の中央にある机を囲んで談笑している。命に別条ない、ということはわかっているがもう少してきぱきと処置をしてほしい。１時間ほどしてスパトラ先生という30代半ばの女医さんが来た。彼女は母を簡単に診察し、ブアさんや兄の話を聞いて、様子を見るために１日入院しましょう、という。母は救急室からレントゲン室へ運ばれて行った。
■VIPルーム
今回は普通の個室に空きがなく1日4000Bの特別室。シャワー、トイレルーム、応接セットが付いている。4階の広い窓から、煙害に霞むゴルフ練習場が見下ろせた。ブアさんが例によって、てきぱきと付き添い時間割を作り、泊まり込みに必要な品の指示をする。
こちらの病院は完全介護が建前であるが、紙パンツの交換、食事の介助などは付き添いの仕事だ。付き添い家族が病室へ布団を持ち込んで泊まることはタイでは普通。母は点滴の鎮静剤が効いているのかずっと寝入ったままだ。目覚めたとしても意思の疎通がほとんどできないのだから付き添いは必須である。
翌朝、ブアさんの交代要員、ニイさんを連れて病院に行く。母は相変わらず眠ったまま。応接セットの長椅子で一夜を過ごしたブアさんはあまり眠れなかったのか機嫌が悪い。
■もう一人手伝いが・・・
夕方の4時過ぎにスパトラ先生が来て、問題無し、退院可と言う。前日と同じく救急車で家に送り届けてもらった。咳が少し残っていて、夜10時ごろ少し吐いた。Tシャツの交換、背中を支えるなどブアさんの手伝いをした。連夜の介護でブアさんは疲れている。こういう日が続くと、一人でママさんを見ていく自信がないという。何かあったら夜でも飛んできます、とニイさんは言うが、タイ人の連れ合いが嫌がるので、実際にニイさんが緊急時に来ること殆どない。やはり泊まり込みの女中さんがもう一人必要です、とブアさんが言う。私も30代と違って体力がないし。
ブアさんは先月、チェンライ病院で献血した。こちらの病院は目一杯採血する、自分を待たせまいと、炎天下、走って病院の外の車に戻ってきた。車に乗ってからブアさんは貧血を起こし、一時失神した。本人にとって初めての経験でショックだったようだ。それ以来、私は健康でない、と言うようになった。
これからどんどんママさんは衰えていく、夜間2人体制だと安心、泊まり込み可という女中さんは簡単には見つからないが、幸い、来てもいいという女性がいる、などと口説く。1日入院すると思えばその費用で充分女中さんを雇えるが、ニイさんも働きたいだろう。そうなると女中さん3人態勢ということになるのだろうか。思案のしどころである。
写真は病院と煙害のチェンライ。
健康に障害があるという基準値が120のところ、300前後という日も。こういう日はテニスをしても息苦しい感じ。
