結局は自己責任
■海外邦人の保護
前号で「コブラ・ゴールド」を少し紹介した。コブラ・ゴールドとは東南アジア最大級の多国間共同訓練(軍事演習)で米軍とタイ軍の主催で1982年から毎年行われている。日本の自衛隊は2005年から連続10回参加している。昨年のコブラ・ゴールドには米国、タイ、日本の他、シンガポール、インドネシア、韓国、マレーシアに加え、中国が初めて参加した。この演習では2008年より邦人の退避訓練が行われている。昨年は初めて航空自衛隊のC-130C輸送機が登場した。C-130は戦術輸送機のベストセラー、全世界69カ国で運用されているそうだ。ロッキード社の仕様によると乗り込める人数は100人弱であるから、いざという時にはピストン輸送で避難邦人を運んでくれるのであろう。
自衛隊に海外での邦人保護任務が与えられたのは1994 年のことだ。自衛隊法84条が法的根拠で、「現地の安全が確保されていること」が前提条件とされている。事実上、敵対勢力との銃撃戦などが想定される危険な場所への派遣はできなかった。しかしながら現地の安全が確保されているのであったら、民間機が飛んでいるはずで、何も自衛隊を派遣する必要はない。武器の使用も当初、隊員自身の防護のための必要最小限度に制約され、使える輸送手段も自衛隊の航空機と船舶だけだった。
■自衛隊の陸上輸送が可能に
2013年にアルジェリアで日系の石油プラントが武装集団に襲撃され日本人10人が犠牲となる事件があった。この時は陸上輸送の権限はないので、輸送機は用意するので、空港まで来て下さい、途中で武装集団に車が攻撃されても自衛隊は何もできません、という状況だった。
それで2013年11月に自民、公明などの賛成多数で、自衛隊による陸上輸送を可能とする改正自衛隊法が成立し、空港や港湾から遠い内陸部にも自衛隊車両が邦人救出に向かえるようになった。
陸上輸送は危険性が高いため、現在許されている小銃、拳銃以外の武器の携行も認める方針と言う。それでも武器の使用にあたっては正当防衛の縛りがある。ということはまず一発こちらがやられない限り応戦できない。車両がロケット砲で攻撃されたら応戦する前に全員やられてしまう。また輸送の対象となる邦人を防護することが目的なので、近くの街で邦人が襲われているという情報があっても自衛隊は救出にいけない。現地政府軍が自衛隊に協力して車両警護をしてくれるかもしれないが、集団的自衛権の行使にあたって厳しい縛りがあり、現地政府軍が攻撃されても自衛隊が応戦できるとは限らない。
どうするのか、というと、武装集団がいる場所を迂回する、攻撃しないよう説得に努める、のだそうだ。武装集団の説得は「憲法9条」のプラカードを掲げた民主党、野党の皆さんに是非やってもらいたい。
健康のためなら死んでもかまわない、というジョギング愛好家は本人の趣味だから仕方ない。でも憲法9条のためなら在外邦人、自衛隊員はいくら死んでもかまわない、ということではまさに本末転倒ではないか。
■無策の政治家
ISISに囚われた邦人2名が惨殺されたことは記憶に新しい。両氏が処刑されたのは安倍首相がエジプトで行った演説のせいだと言う声が野党から起こった。野党の主張は安倍批判のための無責任な言い掛かりだった。その理由はISISの蛮行の後、このような事件が再び起こらないようにするために野党から有効な対策や提言が出されたという話を聞かないからだ。
安倍首相は2度とこのような悲劇を起こさせない、日本人に指一本触れさせない、と述べた。できもしないことを、と野党はせせら笑ったが、この安倍首相の発言は一国の指導者として当たり前のことと思う。日本国民を拉致、殺害した場合、それなりの報復を覚悟しなければならない、と相手に思わせることが、悲劇を阻止する道である。国民の命を守るための方策を野党も真剣に考えるべきである。北朝鮮の拉致犯罪でも拉致したと広言する人物がいるのに逮捕もできない。被害者奪還など現行法制のもとでは夢物語だ。
現行憲法が拉致被害者奪還、邦人保護の大きな足かせとなっていることは誰もが知っている。国を挙げて憲法論議を真面目に行い、普通の国並みの憲法に改正して欲しいが、民主党の枝野幹事長はまず、安全保障法制の整備に関して「民主党に意見なんてものはない。政府・与党に反対意見を言うだけだから、政府・与党の意見を聞かなければ自分たちの意見は言わない」と言っている。
こんな無責任な国会議員がいるから、海外邦人はいざという時、自己責任で行動するしかない、ということになるのだろう。
写真はC130と枝野幹事長(右)