チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

対極の人

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対極の人

■元レンジャー隊員
レンジャー隊員とは一般の自衛隊員よりも、体力・精神力・運動能力・判断力などに優れており、戦闘技術、サバイバル技術やその他特殊技術を持った隊員のことである。自衛隊のエキスパートと言っていいだろう。陸上自衛隊員のうち、レンジャー資格を持っている隊員は1割にも満たない。レンジャー訓練は2ヵ月半、選ばれて訓練を受けるわけだが3分の1は脱落してしまうという。

訓練の前半は体力強化、後半が実地戦闘訓練、この実地戦闘訓練の中では、限界をとっくに超えた体で、不眠不休に近く、食料は自給自足で飢えと渇きに耐えながら40kg以上ある装備を背負い、約100km先にある目的地へ、全く整備されていない山の中をひたすら歩き続ける、という最終訓練が最もきついという。40キロの装備というと一度、腰を下ろすと、介助なしでは起き上がれないほどの重さだ。

「飯は食うものと思うな。道は歩くものと思うな。休みはあるものと思うな。夜は寝るものと思うな。助教・教官は神様と思え。」との「レンジャー五訓」を聞くだけで、どんな訓練に耐えなければならないかが分かる。それだけに訓練を終えてレンジャー徽章を授与された嬉しさは格別のものがあるらしい。隊員の中でも一目置かれる。

習志野陸自第一空挺団と言えば最精鋭のパラシュート部隊、いざとなれば60キロの装備をまとい、尖閣であろうが竹島であろうが離島奪還のため果敢に降下していく。この陸自第一空挺団に属し、レンジャー資格を持った人が我が友人にいる。チェンライから100キロほど離れたパヤオに住むKさんである。学園紛争に嫌気がさして大学をやめ、自衛隊に入ったというから、年は自分と同じくらいか。自衛官の時は休日毎に英会話学校に通い、20代後半で除隊したあとは英国に渡って2年過ごした。帰国後はサラリーマンとして定年まで勤める。縁あって10年ほど前からタイ暮らし。未だに精悍な風貌と引き締まった体をしている。自宅に伺った際、パラシュート降下の写真が飾ってあった。それで彼が空挺団にいたことを知った。自分からは自慢めいたことは話さない控え目な人である。

■米作りに燃えたKさん
傍目からはともかく、自分では教職も含め、真面目に勤めたつもりであるが、やはり元来が怠惰な性格なのであろう、60過ぎたら働くことはやめようと思っていた。母の介護のこともあり、図らずも願望が成就したわけである。それでも働き続けるカタギのご同輩に対しては、私はお天道様に背を向けて歩くバカな人間でございます、といくらか引け目に思う気持がある。

Kさんはタイにきた時、宅地を買ったがついでに田んぼも買わされた。売り手が借金で首が回らなくなったので人助けのためだった。せっかく田んぼがあるのだから、とやったことのない米づくりを60歳から始めた。働かずにはいられない日本人の典型、自分と対極にある人だ。

田んぼに流れ込む水を見て、いい米を作るにはまず水づくり、大量の木炭を篭に詰めて用水に沈めた。澄んだきれいな水が田んぼに流れ込むようになった。地区の農業試験場に教えを請いに行った。試行錯誤、研究結果はすべてノートに書き残して、次年の作業計画に反映させた。個人で2町4反の田んぼをやり続けた。数年後、どうなったか。彼の隣の田ではタイ人が米を作っている。反当りの籾収量は400キロ、価格はキロ当たりわずか7B。ところがKさんの田では反当たり700キロの収量。Kさんの米は味が良いというので隣の田の米の3倍以上の価格でバンコクに引き取られていく。

■タイに来たから会えた人
彼のノートを参考にすれば、タイの農家でも美味しくて収量が高い米づくりができる。Kさんは米作りでタイに恩返ししたいという夢を持っている。しかし、夢の実現は難しい。まず、誰も、どうしたらそんなにおいしい米が沢山出来るのか、と聞きに来ない。逆に妬みで田んぼにごみを投棄されたり、田の水を抜かれたりするという。

タイに来て観光もせず、田んぼで働くだけの数年を送って、Kさんはオレの人生、これでいいのか、と疑問を持った。そして、お気楽な遊び人に見える自分を羨ましく思ったそうだ。うぶな若旦那を吉原に連れ出す落語「明烏(あけがらす)」の源兵衛さん役は務まらないが、取りあえず、行ったことがないというので、ランパンのお寺巡りにご案内した。

対極にある人との対話は面白い。米作りを巡っての日タイの社会的、文化的構造の違い、あるいは落下傘降下のコツなど話は尽きない。タイに来なかったら会えなかった人の一人である。



写真はレンジャーのページから