チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

タイの磁器

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タイの磁器

カオリン(白陶土)
忘年会、新年会もほとんどないまま、暮れ、正月が過ぎていった。こちらでは正月飾りはないが、前年からのクリスマスツリーが年を越しても飾ってある。ビッグCというチェンライ最大のスーパーには例年、フロアに2階まで届く巨大なクリスマスツリーが設置される。年が改まってもずっとそのままだったが、1月7日にやっと片づけた。他の商店でも松の内には適宜、ツリーは消えていったが、ハッピーニューイヤーの飾りはそのままで、恐らく中国正月の2月までこのままなだれ込むのではないか。

昨年は3度ほどランパンに行った。ランパンは古い街であるから、由緒あるお寺が多くある。お寺巡りが主目的であったが、行くたびに陶器店に寄って陶器をいくつか購入した。決して高いものではないが、きれいな食器を使うと料理まで美味しく感じられる。今年は食器に少しお金をかけてもいいかもしれない。ランパンにはカオリンと呼ばれる白陶土が出る。カオリンは高級な磁器素地の重要な原料であるが、日本には商業的な磁器用カオリンはほとんど産出しないので、韓国に産出する河東カオリンなどを輸入しているという。

日本で唐津焼を勉強したタイ人が「ドイ・ディン・デーン陶工房」という窯をチェンライに開いて、黒色を主体とした壺、皿などを製作している。芸術性も高く、日本からわざわざ買い付けに来る人もいると聞く。ここの土は文字通り、ディン・デーン(赤土)である。この工房ではカオリン(白陶土)は使用していないのだろうか。

輸入するくらいであるから、カオリンの産出地であるランパンに日本から陶工が来て磁器の窯を開けばいいのではないか、あるいは技術指導して、白磁青磁、絵付けを作ってはどうかと思うのだが、やはり安価な陶器に押されてしまうということだろうか。

■ベンジャロン焼き
ランパンには低価格で肉厚の陶器しかないのか、というとそうではない。タイの高級磁器を代表するベンジャロン焼きの工房がある。タイに来た頃、日本語情報誌「ちゃーお」の編集者、Tさんに「中西さん、ウズベクで何を教えていたのですか」と聞かれた。「ベンチャー論」と答えたら、「えっ、ベンジャロン焼き?」と返されて絶句してしまった。確かにベンチャー論の講義より、陶磁器の作り方を教えた方がウズベクの役に立ったかもしれない。ともかく、それ以来、ベンジャロン焼きが身近に感じられるようになった。

「ベンジャロン」という名前は、古代サンスクリット語の数字の5を表す「ベンジャ」と、色という意味の「ロン(グ)」で“5つの色” という意味ではあるが、5色は多色という意味も含まれることから、このベンジャロン焼きには様々な色が施される。16世紀終わりから17世紀前半、アユタヤ朝の時代に中国景徳鎮から招かれた陶工が、白い磁器の上に絵を描き、再度焼成する技法を伝えたという。

カオリンで成形された皿や壺はまず素焼きされた後、釉薬を掛けて1300℃近くの高温で本焼きされる。白磁の出来上がりだ。その磁器に、上絵具で文様を色付けし、さらに800℃前後の低温で再度焼き付けると色絵磁器「ベンジャロン」が出来上がる。ほぼ同じ行程の焼き物といえば、中国の景徳鎮の五彩色絵、日本では有田や伊万里、それから九谷焼などが上げられる。
日本もタイも陶磁器は中国の景徳鎮の流れを汲むが、アジアだけでなく、ヨーロッパのマイセン焼きにも中国磁器の影響は及んでいる。

■王室御用達
先日、団地の町会長を務めるナーさんの家に行ったら、戸棚の中に金襴手と言われる金色の縁取りをした豪華なベンジャロン焼きのティーセットがあった。
初期のベンジャロン焼きには、このような金色の装飾はなく、色絵磁器・赤絵磁器だったそうだ。それが今から200年ほど前のラマ2世の時代に、タイ語で金の水の紋様という意味の「ラーイ・ナム・トーン」という、金の縁取りが施される様になり、王室専用の磁器として作られるようになった。その後は王室から貴族、富裕な商人と広まって、現在はナーさんの家にもあるし、日本からの観光客が競って購入していくほどに普及している。

タイの陶磁器の歴史を調べていて、気付くことが一つある。それは柿右衛門とか木米といった日本なら当然の、陶工の名前が一切出てこないことだ。それどころか突然、有名窯が歴史から消えてしまう。タイ、中国、朝鮮半島には「職人の歴史」は存在しない。職人が尊敬されるか否か、国の産業発展を考える場合のヒントがありそうだが、すでに1800字を越えた。



写真はベンジャロン焼き