チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ5年8カ月

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介護ロングステイ5年8カ月

■昨日こそ早苗取りしか
運動場に行く時、左右に稲田が広がる場所を通る。ついこの間、田植えをしていたのにもう稲の匂いがするようになった。

昨日(きのふ)こそ 早苗取(さなへと)りしか 何時(いつ)の間に 稻葉微(そよ)ぎて 秋風の吹く、という和歌を思い出す。東京では最低気温が20度を下回るようになった。日本ではもう稲刈りが始まっているのではないか。チェンライでも稲葉がそよいでいるが、秋風は吹かない。最低気温は22-23度であるが日中は32-33度に上がる。米の生育にとっては積算温度が日射量より重要と言われている。田植えから刈り取りまで日本より短いのは必要積算温度2400度から4500度の範囲に早く達するからだろう。

刈り取りが遅れたからと言って台風が来るわけでも霜がおりるわけでもないから、いつでも田植えができて、いつでも刈り取りができる。だから見渡すといろいろな生育状況の田が混在する。

■思考モード
去年の今頃は日本に帰っていた。チェンライに戻った当初、この田んぼの規律のなさに我慢がならなかった。田んぼばかりではない。電線がだらしなく弛んでいるのも、スーパーのやる気のない陳列状況にも腹が立った。3人乗りのバイクや免許を持っていないはずの中学生が運転するバイクに、また道路を平気で逆走してくるバイクや車が気にさわる。
タイの寛容さを快く思ってきたはずなのに、洗練され、何事にも規律正しい日本に帰国するとスイッチが日本仕様に切り替わって、タイのだらしなさ、けじめのなさに苛ついてしまった。

しかし日本人の、それもかなり偏った潔癖感からタイを非難しても始まらない。それでは母を連れて日本に帰るか、というとその選択はない。米の生育状況がバラバラだからといってそれがなんだ。逆走が原因で起こった事故を見たことがあるか。チェンライに戻って10日も経つと思考回路がタイ仕様に戻った。ま、いいじゃない、人生いろいろ、国もいろいろ、農作業、交通ルールだっていろいろだ。

■タンブンする日本人
この9月で母は89歳になった。ここ1年、母の状態は落ち着いている。食欲もある。ただ少し眠っている時間が長くなったように思う。夜中に叫ぶことはなくなった。ブアさんはママさんが健康なのはタンブンを積んでいるからだという。タイの庶民には多いタイプと思うが、ブアさんはタンブンが大好きだ。タイではお寺にお金やご供物を寄進するに適した日が月に4日ある。新月、満月それに上弦、下弦の半月の日だ。ワンプラ(仏の日)と言われ、タイのカレンダーにはお寺のマークが付いている。この日に限らず、ブアさんはタンブンに励む。坊さんのほうから団地に出張してきて、我が団地の善男善女からタンブンを受ける時がある。自分もブアさんの命令で参加。彼女の言うように母に何かあれば、ご近所の皆さんのお世話になる。だから信心深い感心な日本人と思われる方がいいかという気もある。

ブアさんは20代から30代をお寺で暮らし、住職のお父さんの介護をしていた。そのせいかお寺関係に知己が多い。突然、坊さんの一団が我が家に上がり込んできて、母の健康祈願をする、ということも再々だ。近所のお寺で落慶法要などのイベントがあるときはたいてい連れだされる。ママさんの健康祈願のタンブンをするのだから、と言われると、断るのもよくないように思う。お寺で会う人も限られていて、坊さんも参詣人も顔なじみ。団地が地盤のホエドイ寺の住職などと向こうからハグしてくれるようになった。

■タンブンの効果
ブアさんの影響か、タンブンすることがそれほど苦ではなく、むしろ喜びとなってきた。混雑しているスーパーの駐車場で偶然1台分の駐車スペースを発見した時など、あ、タンブンしなければ、という気になる。母はここ10カ月全く薬というものを飲んでいないが、ずっと健康でいられるのはやはり、タンブンのお陰ではないか。少なくともこれまで服用していた抗認知症薬よりは効き目があるように思う。

お金をタンブンする場合、封筒に入れ、寄進者の名前と願い事を書く。また物故者の供養の時はその旨と俗名を書く。坊さんはその名前を読み上げてお経をあげる。去年も今年も大学時代の先輩、同期、会社でお世話になった人などの訃報に接した。本来であれば通夜の末席に連なるべきであるが、ちと遠方の侘び住まい、代わりにタンブンして極楽往生を祈願してもらう。

大学の先輩は、バカ者、タイ語のお経で成仏できるか、と怒るかもしれない。でも100Bとはいえ、これでいくらかは自分の気分が晴れるのである。





写真は水田、団地のタンブン、お寺の本堂と落慶