■バンコクの反政府デモ
最近、毎日のように総領事館から「反政府抗議デモに関する注意喚起」というメールが流れてくる。反政府デモの行進ルートの情報とその時間には人混みに近付かないようにという注意がある。幾つかの政府機関がデモ隊に占拠され、日本人学校も一時休校になったと聞く。政府側は全面的な制圧に乗り出してはいないが、死傷者も出ている。12月9日のデモ参加者は20万人を越えたというから、日本の特定秘密保護法反対デモの比ではない。
日本でもタイの状況は連日報道され、自分たちの安否を心配してくれる友人もいる。しかしチェンライは至って平穏である。
タイは王室擁護の黄シャツ党（民主党、王様の誕生日の色に由来する）とタクシン、いや、その妹であるインラック首相を党首とするタイ貢献党の2つが大きな勢力を占める。タクシン派は赤シャツ党と言われる。赤は国旗にも使われ、国民、国家を象徴する色だ。
反政府派、政府派は文字通りはっきりと色分けされる。北タイは赤シャツのタクシン派が強い地域である。自分が黄色いＴシャツを着ると、女中さんが危ないから別のシャツを着ろ、という。反対色のシャツを着て政治集会に行こうものなら、甲子園球場のライトスタンドで巨人軍の旗を振るより危険な事が起こる。
■タイの国政選挙
タクシン派のタイ貢献党は2年前の総選挙で過半数を占めた。インラック氏は連立で500議席中300議席に支持され、安定政権樹立に成功した。
日本では昨年の衆院選で自民党が圧勝し、自民の安定政権ができた。その前の3年間は民主党が政権を維持した。好き嫌いはどうであれ、国政選挙は国民の審判、次回の選挙までその結果に従うのが民主政治の基本ルールと思うが、タイではそうではない。
反政府派はインラック政権は腐敗していると指弾するが、タイの政治に汚職はつきもの。今に始まったことではない。問題があれば国会で論議されるべきだが、野党議員が全員議員辞職してしまったので国会審議もできない。
12月9日にインラック首相は下院を解散し、来年2月2日に総選挙を行うと発表した。普通ならば、これで騒ぎは収まると思うのだが、反政府デモを指揮するステープ副首相は「インラックは口を開けば憲法という。憲法などどうでもいい、インラックを排した選挙管理内閣（人民政府）を作るべき」と言う。また、インラックを国内に留めてやってもいい、と発言しているから、タクシンの時と同じように選挙で選ばれた首相の国外追放も考えているようだ。
■前にも同じことが
2008年11月に反政府のデモ隊がスワンナプーム、ドンムアン空港を占拠し、タイの観光産業に打撃を与えた。この頃、ロングステイの下見にタイに来るつもりだったが、航空ダイヤが乱れ、格安航空券の代金をそっくり返金してもらった覚えがある。
デモに参加している民衆の中には腐敗政権打倒というスローガンを信じている人もいるかもしれない。でもあれは日当めあてで集まったイサーンの農民ですよ、というタイ人もいる。
信玄と謙信の川中島の戦いは1561年10月17日、農閑期に行われている。戦国時代の戦いは雑兵の集まる農閑期に行われることが多かった。
2008年のデモも、今年のデモも米の収穫が終わった頃から始まっている。弁当支給、日当500Ｂ、警官隊と対峙する前線部隊には特別手当、2008年の時はチェンライあたりからもバスを仕立ててバンコクへアルバイトの農民が出かけたと聞いた。
■インラック圧勝の予想
2月に行われる総選挙に野党民主党が参加するかどうか明らかではないが、いずれにしても現与党のタイ貢献党が多数を占めるのは間違いないとみられている。タクシン派は2001年、2005年、2007年、2011年と過去4回の総選挙でいずれも勝利した。しかし、タイの政治は国民の審判で決まるものではない。
野党を支持する特権階級、軍、警察、司法が来年2月の選挙結果を素直に受け入れるとは思えない。
野党、民主党は2006年、タクシン首相（当時）が反政府デモと特権階級からの圧力で解散総選挙に踏み切った際に、総選挙をボイコットした。総選挙ではタクシン派与党が勝利したが、裁判所が選挙自体を無効と宣告。宙ぶらりんの状態となったタクシン政権は同年９月、軍事クーデターで崩壊した。
反政府デモを指揮しているステープ元副首相は、前国防相や陸軍司令官ら軍幹部との会談を模索している。混乱した政治を収拾するには8年前と同じ軍事クーデタしかないと考えているのだろう。
反政府デモの陰には勿論、あのお方がおられる。でもご病状を書くだけでも不敬罪に問われ、15年の禁固刑を受ける。だからこれ以上、何も書けない。
写真上から二枚は「デモ隊」その下が「ステープ元副首相」「解散を発表するインラック首相 」
