■ アランとの会話
ビヤラオはラガービールと黒ビールがある。ラガーに適量の黒ビールを混ぜて飲む。一段とうまい。オーストラリアではこういった飲み方をしないのか、アランは不思議そうに見ている。
ところで、昔から不思議でしょうがなかったんだが、どうして日本は戦争をおっぱじめたんだね？
それはレイシズム（人種差別）から始まっている。20世紀初頭、産業革命を起こせるのは白人国に限られると信じられていた。白人の有色人種への差別意識は徹底していて、白人と有色人種の関係より、有色人種とチンパンジーの関係のほうが近いというのが当時の常識だった。そのチンパンジーもどきが生意気にも、白人国に伍し、さらには追い越そうとした。分をわきまえない劣等民族を一発叩きのめしてやれ、これが太平洋戦争の実態だ。日本が始めた戦争ではなく、アメリカに仕掛けられたといってもいい。
お前の国だってつい半世紀前まで「白豪主義」でやっていたんだからこの感じはわかるだろう。
でも中国に何とかいう国を建てて植民地にしたんだろ、それがアメリカを怒らせたのかね。
ああ、満州国のことだね。当時、東南アジアは英国やフランスの支配下におかれ、植民地争奪戦に遅れてやってきたアメリカは中国を狙っていた。日本と一緒に中国の鉄道網を整備して。中国を支配下に置こうという提案はあったんだよ。でも日本は断った。
日本は南下してくるソ連が怖くて怖くて仕方なかった。だから緩衝国として満州国を建てた。たとえお題目であったとしても五族協和を掲げ、安全、安心の地域となったから人口は増え、英米の大会社も進出した。あのまま満州国が発展していたら、満州国は英国におけるアメリカ合衆国になる可能性もあったんだ。
満州国が悪いというなら、英国やフランスがアジア、アフリカ、中近東で、またアメリカが中南米やフィリピンでやったことも許されないのではないか。日本は欧米の忠実な生徒として頑張った。帝国主義と言われようとも、弱肉強食の時代、だれも自分の国を守ってくれないのだから、日本は欧米諸国と同じ道を歩むしかなかった。
■会話は続く
人種差別だけが開戦の理由だったのかい？
アメリカは日本人の移民を禁じるばかりか、土地所有、公教育の禁止などの差別を実施してきたが、それが直接の原因ではないだろう。ともに遅れてきた帝国主義国、日本とアメリカはフィリピンと台湾の海峡を挟んで対峙する競争相手となった。ラグビートーナメントで勝ち上がってきて、いつの間にか決勝戦になっていたという感じかな。
日本には開戦に消極的な動きもあったが、石油、鉄、ゴムなどの禁輸措置が次々に取られ、さらにハルノートという最後通牒が来た。日本の支那からの完全撤兵など、日本には到底受け入れられない項目が入っていた。座して死を待つか、死中に活を求めるか。
戦後、東京裁判でただ一人、日本の無罪を主張したインドのパール判事は、「このような通牒を突きつけられたらモナコやルクセンブルグのような小国でも矛をとってアメリカに立ち向かうだろう」と述べている。
また、マッカーサー元帥も上院の議会証言で、かの太平洋戦争は、石油、ゴム、スズ等の資源が断たれた日本が起こした自衛戦争である、と述べている。
結局、アメリカは中国から何の権益も取れなかったばかりか中国を共産化に追いやり、朝鮮戦争で多くの将兵を失った。マッカーサーも満州国をそのままにしてソ連の南下を防いでいれば、中国は共産化せず、朝鮮半島で5万以上の米兵が死なずにすんだのに、と思ったのではないかな。
■日本はいつでも再占領される
そうか、日本は戦わざるをえなかったんだな。
日本があまりにも頑張るものだから、アメリカは原爆という非人道的な兵器を使わざるを得なかった。戦いには負けたが、道義的には日本が勝ったといえるのではないか。俺は日本という東洋の小国が、世界の強国を敵に回して3年半も、それも戦闘機、軍艦から銃弾にいたるまで、外国の援助を一切受けずに頑張ったことを誇りに思っている。英、蘭、豪の白人捕虜を小柄な日本兵が連行していくのを見て、アジアの人も俺たちだってやれると思った。だから日本軍がいなくなったあと、独立戦争に立ち上がったんだ。
アメリカは日本が二度と反抗しないようにと戦力不保持の憲法を押し付け、何かあれば再占領するための軍隊を駐留させている。この意味で日本は本当の独立国になっていない、いや独立国であることを許されていないと思うよ。別に俺は反米ではなく、親日だからこんなことを言うんだ。
ビール瓶が数本並び、いつの間にか辺りは暗くなってきた（続く）
写真は夕暮れのメコンとビヤラオミックスです
