ナーンのボートレース(3)
■選手だけで千数百人?
本部で貰った資料によると、30人乗りの舟のレースには45チーム、40人乗り中型艇によるレースには34チーム、レースの花形、50人乗り大型艇には19チームが参加することになっている。
参加チーム数に乗艇人数を掛けていくと、単純な選手総計は3660名という膨大な人数になる。大きさの異なる舟へのダブルエントリーが認められているというが、それでも最低、千数百名の選手がいると思われる。
参加チームの名前はほとんどがナーン県内の村、郡の名前だ。地区の誇りを掛けて参戦してくるのだろう。選手の家族、友人、応援団、それに見物客を合わせればこのボートレースに集う人の数は2万を越えるのではないか。露店と露店の間が人で身動きとれないのも仕方ない。
■レースの方式
レースは2艇レース勝ちあがりのトーナメント方式、2艇で3回レースを行い、先に2勝した方が勝ちあがっていく。45チーム参加の30人艇では6回勝ち残らないと優勝できない。もしあるチームがぶっちぎりの強さを持っていても、優勝するためには最低12回漕がないといけない。こうなるとスピードを出すための瞬発力ばかりでなく、持久力の争いという側面が強くなってくる。
なにぶんにもレース数が多いから、レースの開催日が2日になるのだろう。1日目は予選で、2日目に決勝があるらしいが全てのレースが終わるのは16時ごろとのこと。
日本のレースでは5艇レースが普通、通常は予選、準決勝、決勝と1日3つ漕げば終りだ。山下埠頭公園前で行われる横浜大会や岩手北上川大会では午前、午後と2度漕いで、タイム上位5チームによる決勝、それだけ。
ナーンのレースではタイムは取っていないようだった。タイム集計、記録などの作業がなければ運営上、かなり楽になる。
それぞれのカテゴリーで優勝賞金が出る。
50人艇では優勝チームに8000B(約2万円)、以下、2位7000B、3位6000B、4位5000B、5位3000B、40人艇では優勝7000B、2位6000B、3位5500B、4位5000B、5位2000B、30人艇では優勝6000B、以下4位まで500B単位で賞金が下がっていって5位が2000Bとなっている。
優勝しても一人当たり500円程度
VIP観覧席には王女様の写真と花が飾られ、入賞者に送られるカップが並んでいた。XXX王女杯ナーンボートレース大会という名称なのだろうか。
■レースの模様
パッタナ・パクヌア橋の上流200mのところに艀(はしけ)が浮かんでいて、そこがスタート地点。日本のレースだと5艇を同時に発艇させるから、各艇の船首の位置を合わせるのに時間が掛る。ナーンの場合、2艇であるから船首をそろえるのも簡単、2,3分おきにレースが行われる。
日頃、相当練習を積んでいるのか、漕ぎ手のパドルのリズムが乱れるといったことはない。漕ぎ手は概ね揃いのTシャツを着ている。日本と違ってライフジャケットは着用していない。舟はスリムで優美だが、漕ぎ手もすっきりしている。また舵も固定舵でなく、舵手が大きめのパドルを、右に左に漕いで方向を決める。舵手は船尾に立って漕ぎ手を励ましながら、舵パドルで大きく後方へ水を跳ね飛ばす。パドルだけで、と思うが舟が蛇行したケースを見たことがなかった。よほど舵に習熟しているのだろう。日本から舵留学の邦人が来てもおかしくはない。
日本では、ストローク数やラストスパートのタイミングなどレース中の作戦指示を鼓手と先頭の漕ぎ手がアウンの呼吸で行う。指揮者とコンサートマスタ-の関係と言っていいだろうか。ナーンのボートレースでは先頭を漕ぎ手がリーダーとなって、全員に指示を与える。例えばラスト150mとなった時、リーダーが一瞬漕ぐのをやめ、パドルを船側にカンカンと打ちつける。彼が再度パドリングを開始した途端、全員のピッチが上がり、前を行く舟に猛追し、ゴール手前で抜き去る、といったシーンを何度か見た。
■VIP席
川岸や橋の上、観客席など場所を変えながらレースを観戦した。ゴール前200m付近のテラスに設けられたVIP席にも座った。チェンライで開催されるお祭りでもVIP席に座ることが多い。もちろんVIPではないのだが、こぎれいな服装(長ズボンが望ましい)をして高級カメラを持ち、落ち着いた態度をとっていれば、VIP席に座っていてもクレームはでない、と経験上知っているからだ。チェンライでは前知事夫妻とあちこちの催しで同席した。この人は何だろうと思われていたかもしれない。
VIP席からゴールは遠いのでレースがもつれ込んだ場合、どっちが勝ったかわからない。でもレースが終わるとゴール地点にある着順判定所とパッタナ・パクヌア橋の上に青、または赤の旗が揚がる。赤は手前の舟が、青は向いの舟の勝ちとなる。これでVIP席だけでなく、両岸500mの観客に勝敗がわかる。
旗が揚がるたびに歓声と吐息が漏れる。(続く)
写真な全てナーンの大会の様子、露天はひどく混雑しています。