ワーウィーのイチゴ園
■イチゴ生産者、儀
5月にチェンライ日本人会の総会があった。
熟年、タイ妻のカップルが多い中、30代の男性が新入会員の自己紹介に立った。それがI君だった。「ワーウィーでイチゴ作りをしています。みなさん、一度遊びがてら来て下さい」。チェンライでイチゴ生産とは。どんなイチゴだろう、ビジネスとして成り立つのだろうか・・・
チェンライにもタイ産のイチゴがある。国境の街、メーサイでは毎年2月上旬にイチゴ祭りを開催している。チェンライに住む邦人は、一度はこのイチゴに騙されたことがある。真っ赤で大きくていかにも甘そうなのだが、食べてみると固くて味もそっけもない。ヘビイチゴを食べているようだ。大きさが揃っていて、きれいなパック入りになっているのだが、イチゴの下は草の葉の詰めものでイチゴは1段かせいぜい2段だけ。見た目が美味しそうなだけに失望感が大きい。食べずに放置しておいても1週間でも10日でも見た目はみずみずしいという丈夫さだけが取り柄だ。
■ドイワーウィーへ
I君の農場で甘いイチゴが手に入れば母に、と思っていた。そんな折、友人のKさんからワーウィーのイチゴ園1泊旅行のお誘いがあった。I君の農場には「ワーウィー・ストロベリー・ハウス&リゾート」という宿泊施設(山小屋)がある。7月に入っているが、小ぶりながらまだイチゴも手に入るらしい。3人で行けばI君と麻雀ができるとのこと。
ドイワーウィーはチェンライ市内から約100キロ、118号線をチェンマイ方向に下り、メースワイで右折して3037号線に入る。ここからアップダウンの山道を走る。途中、ドイチャンを通る。ドイチャンはロイヤルプロジェクトで有名になったドイチャンコーヒーの産地で知られている。ドイチャンは標高1750m、この山を迂回しながらドイワーウィーに向かう。タイの山道の例にもれずカーブと勾配がきつい。ほとんど車は通らない。しかし絶対に対向車が来ないと断言はできないし、舗装されているとはいえ穴ぼこもあるから、スピードは出せない。
118号を右折して約50キロ、道端にストロベリー・リゾートとタイ語で書かれた看板があった。本道から農場までの道は未舗装だが、大雨でない限り乗用車でも大丈夫。チェンライを出て1時間強で目的地に着いた。
■農場というより工場
イチゴ農場を見て驚いた。縦横50mの巨大なビニールハウスだ。入り口で手を消毒して、ハウスの中に入る。7月というのにイチゴの花が咲き、甘い香りで一杯のハウス内を受粉のためのミツバチが飛びまわっている。10万株のイチゴが椰子ガラに植え付けられている。水耕栽培といっていいだろう、水や肥料は自動的に供給される。本来は1月かけてゆっくり大きくなったイチゴが味もよく、商品価値が高いのだが、7月であるからどうしても気温が高くなり、花が咲いてから2週間ほどでイチゴが赤く色づき始める。紅ほっぺ、章姫という2種類のイチゴが栽培されていた。小粒だが確かに日本のイチゴの味だ。
設計図を持ってきて日本と同じ施設をワーウィーの山の中に作ったという。これは農場ではなく工場である。出資者、I君の父上はタイで30年事業をしてきたがエンジニアで農業とは全く関係がなかった。I君も元サラリーマン、長野のイチゴ園で3カ月ほど農業実習をしただけ。
2年前にハウスの建設に着手し、昨年暮から出荷開始、11月から3月までが最盛期、「日本のイチゴ」は卸値で250g入り1パックがなんと200B、それがバンコクの高級スーパーでは1パック700-800Bで売られているという。日本円で2千円でも美味しければ買うという富裕層がバンコクにはいるのだ。
日本のイチゴはタイ中探してもこの農園でしか生産していない。生産が需要に全く追い付かないというのが実情だ。小ぶりのイチゴでもケーキ用に売れていく。
■ベンチャー精神
I君の父上は青果物流通業者、ワーウィーの有力者、そしてたまたま長野のイチゴ栽培専門家と面識があって、この事業に乗り出したという。日本の農業施設を持ちこんでイチゴを作る、という発想が素晴らしい。露地栽培で日本イチゴを作る試みはこれまでもあったが、病虫害に罹りやすい、どうしても甘みがでないなど失敗の連続だったと聞く。
エンジニア出身で農業になまじ知識がなかったのがよかったのだろうか。長野のイチゴ専門家に時折、出張を仰ぎ、アドバイスを受けているとのことだが、標高850mのワーウィーは冷涼な気候でイチゴ栽培に向いているらしい。
うまくいけば年間を通してイチゴの収穫ができるという。生産効率からみれば日本のイチゴ園の比ではない。日本の農業も技術を基盤に世界に打って出る時が来ている。ワーウィーのイチゴがその先駆けとなればと願っている。
写真上から「イチゴ園外観」「説明を聞く」「内部」「右端がI君」