チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ3年4カ月

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介護ロングステイ3年4カ月

■自由な時間
先週、兄が一時帰国した。一人でタイ語の授業を受けるのもどうかと思われる。ジアップ先生も妹さんの結婚式が6月にバンコクであるため、タイ語授業は約1月の長期休暇となった。テニスもプローチの指導を受けているがついでに休みにしてもらった。

休みになる前は、何処に行こうか、と楽しみにしていたのだが、一人になってみるとなにかと億劫で気力が湧かない。旅に出るためにはブログ原稿を書き溜めないといけないのだが、PCに向かう元気が出ない。

認知症になると何事にも意欲がわかなくなってくるという。
母は50代、60代は一人で海外に出かけたり、友人と連れ立って銀座や上野に遊びに行っていたが、70代後半になると、あまり外出しなくなった。若い時から何十年も付けていた家計簿もやめてしまった。読書やテレビにも興味を失っていった。自分もこの老化の道をたどっているに違いない。

この気だるさは何か。ベッドに寝そべり片肘ついて、どうして海外ではNHKを見ることができないのか、中国、ウズベク、日本、あるいはタイの国柄など取り留めもないことを考える。

■老いの気だるさ
今はあまり読む人はいないのだろうが、石坂洋次郎という小説家がいた。「若い人」、「青い山脈」、「陽のあたる坂道」等の代表作は映画化され、人気を呼んだ。自分が学生の頃、飲み会になると誰かが「わーかく明るい 歌声にぃ なーだれは消える 花も咲く」とがなりたてていたものだ。
石坂洋次郎は晩年に老いを題材にした小説をいくつか書いている。そこには体力、気力の衰え、気だるさ、老人特有の愚痴など、あまり直視したくない現実が描かれていて、20代の自分は暗い穴の底を覗き込むような気分になったものだ。
石坂洋次郎文庫全20巻」、あるいは「おいらくの記」(朝日文庫)に収録されていることと思う。母と自分の老いを重ね合わせながらしっかりと読み直してみたい本の一つである。川端康成に「山の音」という老年を書いた小説がある。彼は晩年書けなくなって自殺した。いくらブログが書けないからといっても自殺しないと思うが気持はわかる。

■ビアン・カロン
ベッドで片肘ついてぼんやりしている時、ブアさんが部屋に入ってきた。何を考えているのか、と聞く。詳しく説明するのが面倒なので、「本当の人生とは何か(チーウィット・チン・アライ)、幸福とは何か(クワムスーク・アライ)と考えている」。

チェンライとチェンマイの中間にビアン・カロンというお寺がある。仏教の修行道場を兼ねていて、常時100人以上の善男善女が暮らしている。住職、ロンポー・タマサティット師は高僧でありながら事業家としての才能がある。陶器、ビアンカロン焼きを再興し、FM放送局を開設して布教を行い、ビアン・カロンを各地からバスを連ねて参拝客が訪れる北タイ屈指の大寺院に育て上げた。境内ではいつも建設工事が行われていて、行くたびに建物が増えている。
ブアさんは寺でタマサティット師の母上の介護をしていたことがある。家から1時間以上掛るし、行きたくはないのだが、「ママさんのためにタンブンをするのだから」と何度かビアン・カロンに付き合わされた。タマサティット師にも何度か会っている。快活だが眼光鋭く、パワーとオーラが細身の体から溢れているといった感じの坊さんだ。

母親の面倒を見、人生について深く考えている感心な日本人がいるというブア情報はお寺中に広まっている。住職は一度、お母さんと一緒にお寺に来なさいというが、衰えた母に片道100キロのドライブは無理だ。

■高僧、我が家に来たる
今月になってタマサティット師がチェンライ近郊の修行道場に10日ほど滞在することになった。いい機会なので母の見舞いに我が家を訪れたいという。ブアさんはタンブンするだけでも機嫌がよくなるのに、わざわざ偉い坊さんが家に来てくれると聞いて有頂天だ。
タマサティット師、それに道場の主宰者のパクーデーチャ師ら数名が乗った車が家にやってきた。師は愛想良く母に語りかける。そして坊さんが全員合掌して、病気平癒のお祈りをしてくれた。

読経が済むとブアさんが封筒に入ったタンブンを母に握らせ、タマサティット師に渡すように促す。母はあまり機嫌がよくなかったのか、封筒を師が受け取ろうとすると、ひょいと引っ込める。これを2,3度繰り返したので一同大笑いとなった。

今朝、母に「兄ちゃんは日本に戻っているから、その間僕だけで我慢してね」と語りかけたら首を横に振っていた。母の状態がよくなったのは坊さんのご祈祷のおかげ、とブアさんは言うが、やはり先月から服用し始めた新薬が効いているのだろう。

写真上から「ロンポー・タマサティット師」「師と記念撮影」「境内の様子」「作務の小坊主」