ソフトボールと山岳民族の子供達
■山の子供
ソフトボールの練習日は第2、第4日曜の月2回だ。会則も会費もないので、何人チームメイトがいるかわからない。練習会場の大学グラウンドにいってみないと、何人来ているかわからない。普通は平均年齢60超の日本人が数人。この人数では打撃練習をしようにも投手、捕手、打者で3人、残りの2,3人が守備ということになり、抜かれた球を拾いに行くことにのみ時間が費やされる。もちろん練習試合などできない。
ところが、いつの頃からか、Tさんの関係する少数山岳民族の子供寮、メーコック財団から数人、またMさんのさくら寮からも時には10人を越える子供達がソフトボールの練習に参加するようになった。小学校低学年から高校3年まで、女の子も何人かいる。彼らは、ルールはもちろん、バットの握り方も知らない。まず、キャッチボールのやり方を教える。寮には日本から寄付されたグラブや金属バットが相当数ある。道具はあるが使う機会がなかったようだ。始めはおっかなびっくりでグラブを差し出すようにしてボールをキャッチしていたが、正面でボールをがっちり受け止める子も出てきた。ただ、低いボールやワンバウンドのボールになるとグラブの代わりに、足を出して止めようとする。やはりサッカーに馴染みがあるようだ。
■出来る喜び、教える喜び
体を動かすことはよい、などと言うが、平均年齢60歳を超えるじいさんたちが集まって、野球少年時代の郷愁に浸っているだけで何が楽しいか。山の子供が練習に参加するようになって、雰囲気は一変した。バットの握り方、スローイング、走塁方法(打ったら一塁に走るとか)、子供達は素直にアドバイスを聞くし、上達も早い。ピッチャーを任せられる女の子も出てきたし、変則スタンスながら外野に長打を飛ばす中学生もいる。メーコック対さくらの練習試合もできるようになった。打者がフライで打ち取られても、一塁ランナーがホームまで走ってくるなどということはままあるが、ルールも追々覚えてくるだろう。片言のタイ語が飛び交い、老若混じっての珍プレーに歓声が湧く。
打撃練習のとき、外野の後ろに山の子が控えていることは嬉しい。自分が抜かれても、子供がボールを全速力で走って拾ってくれるからだ。最近は三遊間、レフト、センターのよく球の飛んでくるポジションを守らせる。彼らにとって、ライナーやフライをノーバウンドでキャッチすることはそれほど簡単ではない。我々でもノーバウンドキャッチは快挙に属する。ナイスキャッチと声がかかり、拍手が湧く。これが山の子だったら、拍手は倍増する。本人も得意満面だ。メーコック財団のTさんによると、山の子は大人に褒められたことがほとんどない、でもここではちゃんとした大人が褒めてくれる、こんな小さなことでも彼らにとって励みになるのです、と教えてくれた。すばしこい山の子供の動きや上達ぶりに、こちらが元気を貰ってばかりと思っていたが、元気は双方向に流れていたようだ。
■子供達が対外試合に初参戦
先ごろ、チェンマイとチェンライの第3回ソフトボール対抗戦があった。チェンマイは正選手だけで62名、会費徴収、会則、役員も定め、組織的にはチェンライとは比べ物にならない。練習も月6回以上と聞く。試合会場にはミニバスを連ね、40人ほどの選手並びに関係者が集合。チェンマイがPL学園とすれば、チェンライは部員11人の池田高校だ。今回、メーコック、さくら寮から10名ほどの子供達も初参加した。
第一試合、チェンライは先行されたものの、持ち前の「やまびこ打線」が奮起し、後半に12対11と逆転した。このまま試合終了かと思われたが最終7回の裏にチェンライに痛恨の捕逸があって、サヨナラ負けを喫してしまった。なかなかの緊迫したゲームだった。
第二試合、こちらチェンライは山の子中心に編成、ピッチャーはヤオ族の女子高生ラサミーちゃん、チェンマイは60歳以上のシニア軍団。
シニアと言っても試合となれば全力で向ってくる。何事も真面目にやるという日本人の美風を発揮し、フライが上がれば、捕るなー、といっても捕ってしまう。山の子相手だと捕っても落としてもやじられるのだから分が悪い。
但し、ゴロの場合、捕球して、山なりのボールが1塁に届くときには子供がベースを駆け抜けている。彼らの足の速さには惚れ惚れする。守っても球に追い付くからめったに抜かれない。
子供たちはどんどん上達するし、チェンマイ軍団は老化の一途、「山の子チェンライ」がチェンマイチームを打ち破る日もそう遠くないことだろう。
写真はソフトボール大会