チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

アカ族の葬式 3

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アカ族の葬式(3)

■博打は続く
サイコロ賭博は夜10時になると終わり、女性や子供達は姿を消した。しかし、そのあともテーブルでやっていた本物の賭博はまだ続いていた。本物、というのもおかしいのだが、100Bの札束や時には1000B札が無造作に張られ、金額も緊張感も、動物サイコロとはケタ違い。テーブルを幾重にも男達が取り囲んで勝負を見守っている。

20個ほどの長細いマージャンパイを積んだり、配ったりしている。パイには1から6の目が2つ描かれている。サイコロの代わりだ。2枚もしくは4枚の合計目数で勝負する。9が一番強いとサキ君が説明してくれたから、「オイチョカブ」だろうか。
オイチョカブに詳しい人ならば、参加して大勝ち出来るのではないか。しかし、ヨソ者が賭場の金を全部掻っ攫ってしまったら、いくら温厚なアカの人でも「イカサマだーっ」と騒いで、指詰めろ、くらいの話になるかもしれない。

いかにもギャンブラーといった40代のニヒルな風貌の男がいて、大負けはせず、確実に手元の札を増やしていた。賭けごとは運だけではない。この男のテクニックに興味を持ったのだが、賭博は深夜まで続くというし、疲れていたので宿泊先のアカセンターに戻ることにした。それほど酔っているとは思わなかったが、ピヤさんが運転を代行してセンターまで送ってくれた。

■飲酒の礼儀
翌朝も前日に引き続き、どんよりとした雨模様の天気。前夜の酒が残って、体調は万全とはいえないが、バケツの水を何杯も体に浴びて、身を引き締めた。タイの習慣に染まったのか、朝、シャワーを浴びないと気持が悪い。山の空気と水は冷たく、シャワーというより水垢離修行に近い。頭から最初に水を被る時は思わず気合が入る。

8時に会場に行ってみたらすでに数十人の人が集まっていた。アトゥがやってきて、グラスに注いだラオカオを勧める。ままよ、迎え酒、と飲み干した。会場にいる女性達が酒瓶もしくは酒を移した栄養ドリンク瓶とグラスを持っていて、ちょっとでも目が合うとグラスを勧めてくれる。空きっ腹に駆けつけ3杯。朝からほろ酔い気分だ。

昨日、到着した時、多くの人が栄養ドリンクの小瓶とグラスを持って、誰彼となくグラスを勧めていた。アカの葬式では栄養ドリンクを飲むのかと勘違いしたくらいだ。

酒を注がれた場合、グラスの中に中指を漬け、精霊と先祖に捧げるために、一滴、地面に垂らす。そののち、グラスを一気にあおる、というのが正式儀礼だそうだ。ピマや長老たちは女性や遺族からひっきりなしに酒を勧められている。そのまま飲み続けていてはどんな人でも急性アルコール中毒で倒れてしまう。よく見ると女性達は長老に形ばかり、少量の酒を注いだグラスをわたす、長老も口を付ける真似ごとをして、酒をそっと地面に空ける。他の男達も次から次へ現れる会葬者達も、ぐいぐい飲み干すような意地汚いことはせず、そっと酒を地面に空けている。葬儀会場全体がラオカオの香りに包まれているのはこういった理由による。

9時から朝食、食事時間になると会場テーブルはほぼ満席となる。葬儀期間中は誰でも陪食出来るようだ。まずグラスのラオカオを一杯飲んでから食事が始まる。昨晩、柩が安置された部屋で殺された豚がスープ、炒めもの、ミンチなどになって出てきた。豚の生挽肉に血を混ぜたラープは美味しかったが、昨夜の鮮血ドバドバを目撃しているだけに複雑な気持だった。男が酒を勧める。朝から3,4杯飲んでいるし、手で制しようとしたら、サキ君が3杯までは断ってはいけないのです、というので、また頂戴してしまった。これでは酩酊してしまう。でも3杯まで、というのは建前で、サキ君は最初に注がれた酒を残したまま食事を終えていたし、飲みたくなければ断ることも自由だ。

■マラソン朗詠
葬儀2日目は庭の隅に塩、米、鶏などを乗せたちゃぶ台の祭壇を置き、その前でピマが9時から翌朝6時まで休みなく伝承詩の朗詠を行う。単調なリズムに乗せて、先祖の名前を読み上げ、死者の人となりを神と先祖に報告し、天国に迎え入れてくるよう依頼する。詩の形式はすべて決まっており、代々、シャーマン(ピマ)に口から口へと伝えられてきたものという。
ピマの隣にはいくらか若い見習いがいて、ピマの朗詠に耳を傾けていた。PCレコーダをピマの背後に置いたのだが、親切な人がそれをピマの前にあるちゃぶ台の上にのっけてくれた。
この様な事をしても許されるのだろうか。目を閉じたまま朗詠を続けるピマがレコーダを見つけた時の反応が心配で彼の顔を見続けていた。(続く)


写真一番上が「賭博の様子」下から二番目は「食事のテーブル」、一番下は「ピマに酒を勧める様子」