チェンライの市場から

「市場に並べられた商品からその国の生活がわかる」と言われます。当ブログを通じてチェンライに暮らす人々の生活を知って頂きたいと思います。 チェンライに来たのは2009年から、介護ロングステイは2018年8月母の死去で終わりとなり、一人で新しい生活を始めました。

介護ロングステイ17ヶ月

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介護ロングステイ17ヶ月

タイに来てから17ヶ月、その間、兄は何度か一時帰国しているし、自分も2回ほど比較的長期の海外旅行をしている。また、兄弟でスコタイ、カンチャナブリ、メーホーソンなど2泊程度の国内旅行には何度も出かけた。これも母の病状を理解している女中さんに留守を任せられるからに他ならない。

一度、解雇したがブア(写真右)は結局、この17ヶ月この家に居付いている。外交的性格なのか、一月一回の病院通いでも、待合室で顔見知りとなった看護師さんや看護助手のお兄さんたちと親しく話している。プルーム医師へ、この一月の食欲の有無、睡眠の様子など、母の病状を説明するのも彼女の役目。時には貰っている薬(8種類もある)を取り出して、この薬はあまり効かないんじゃないか、などと言っている(らしい)。

この日も、プルーム医師からは「特に変った様子がないから、同じ薬を出しておきます」。診察が終わると、ブアが「ママさん、アリガト、アリガト、」と母にお礼を言うように促す。母は素直に手を合わせ、「先生、有難うございます」などと言ってプルーム医師を喜ばせることもあるが、この日は機嫌が悪く、帰り際に手をひらひらさせて「さよなら」の仕草をしただけだった。それでも医師は「オホー、ディー、ディー(結構。結構)」とご機嫌だった。

診察が終わると看護師さんが次回の診察日時を書いたカードをくれる。これを受け取って管理するのも彼女の仕事。診察費の支払いのとき、「はい、これ忘れないで」と薬代が1割安くなるVIPカードを渡すのも彼女だ。

北タイの女は何かと取り仕切りたがる。男の一人も養えないようでは女ではないという気風がある、と聞いたことがある。特に我が家は女主人がいないものだから、ブアが何かとしゃしゃり出てきて、時には軽いトラブルを起こすこともある。空き家になっていた隣の家に職人がやってきてにぎやかに改装工事を始めた。隣家も我が家も同じ大家である。工事が始まって、我が家の電気代が急に高くなった。(といっても2千円位のものであるが・・・)ブアはチェンライの電気局事務所に行き、工事で使っている電気が、我が家の電線から引かれているということを突き止めた。問題はそれから先である。彼女は大家の奥さんに電話して「あんたはカモーイ(ドロボー)だ」とやったらしい。大家さん(バンコク郊外に住む日本人)から自分に電話があって顛末を知ったのだが、いやはや。

10ヶ月勤めてくれたもう1人の女中さんが4月に体調不良のために退職した。母は、おぼつかない足取りではあるが自分で歩く。転ぶ恐れがあるので目が離せない。ブア1人では大変だ。ブアは自分の村に行って一緒に仕事をしてくれる女性を探したが、やはり24時間勤務で介護の仕事というと、皆に敬遠されるようだった。

1970年代に、韓国、台湾によく出張していた。あの頃は人件費が安かったのだろう、企業が入っている普通のビルでもエレベーターには1人ずつエレベーターガールがいた。台北市の下町、龍山寺の裏手は知る人ぞ知る赤線地帯だ。怪しい雰囲気が好きでよく歩いたものだ(ただし歩くだけ)。しかし、台湾の経済力向上につれて、この地区の賑わいは瞬く間に薄れてしまった。こんなところで働くよりもっといい就職口が沢山出来たのだろう。

1967年から1979年まで都知事を務めた美濃部亮吉という人がいる。彼は、普通のサラリーマンが女中の1人も使えないのはおかしい、といった発言をして物議を醸した。彼はマルキストでありながら女中奉公せざるを得ない階級の悲哀が理解できなかった。そういえば、1966年から67年にかけて放映されたNHK、朝の連続テレビ小説おはなはん」で、明治の中期、少尉か中尉と結婚したおはなはんの家には馬の世話をする下男と女中さん、二人の召使がいたと記憶する。新婚家庭でも女中さんを雇える時代が日本にもあったのだ。

国が発展していけば、当然のことながら、女中さんのなり手は少なくなる。日本でも韓国でも台湾でもそうだったのだから、経済発展著しい中進国タイでも女中さんを見つけることが難しくなってくるのは当然のことだ。ここ2,3年、タイの政界は大揺れだ。これはこれまでと同じように、女中を使い、優雅に暮らしたい階層と、いや、もう女中などしたくない、バイクもテレビも買って中産階級の暮らしがしたいという階層の主導権争いと見ることが出来る。

ともあれ、その後20歳になるオイさんという女中さんが見つかった。ブアの指導の下、母の面倒をよく見てくれる。いい女中さんを見つけるのは難しい。介護の質は女中さんの気持に負うところが大きい。このままずっと勤めてくれるといいのだが。


写真は左からオイさん、母、ブアさんです。